私の家族は、私の仕事の内容を他人に説明することができませんので、それはもう諦めているようです。
まあ、無理ないとは思うのです。
「何をする人」と問われても、大体半年単位でやることが変わっていて、その内容は「なんでも屋」「便利屋」あたりが妥当だと思うのです。
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頼まれれば、プログラムを作るし、マニュアルも書く。システムコンセプトからシステム構成図、部品にいたるまで検討します。
世界中の市場の動向が必要と言われれば、それらしい調査報告も書くし、自分ですら信じていない未来の分析もする。
必要ならそれらの翻訳もやります。
共通していることは「仕事が形として表われてこない」ということです。
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そんな中、知財部から送られてくる、米国の特許証は、家族に主張できる数すくない「形となって表われる仕事」の一つです。
米国は、最近になって、やっと先発明主義から先願主義に変わったといいますが、あの国は、基本的に「発明者」に対して敬意を払う国です。
ですので、特許権者(例えば私の会社)ではなく、筆頭発明者(私)の私に、特許証という名の「冊子」を作って贈ってくれます。米国はいい国です。
私は、この特許証を、深夜、さりげなくリビングのテーブルに置いておきます。
翌日、家族がそれを見ます。
特許証の中に、英語で記載された自分の父親の名前と、30ページにも及ぶ英文と図面が記載されている。
家族は、なんか父親が凄い仕事をしているような「錯覚」をする ―― か、どうかは分かりませんが、
少くとも、父親自身は、そのように「思い込む」ことでで、「父親自身を自分を幸せにすること」はできるのです。
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私は、これまで表立って、会社と事を構えたことはありません(多分)。
ストライキを呼びかけたこともないし、給料のベアアップを要求したこともありません。
不当な命令(英語使えないのに、国際会議でホスト役をやらされたこと等)にも、泣きながら対応してきました。
明かに間違っていると思われる会社の各種制度にも、異議を申し立てるころなく諄々と従ってきました(必要な時は、幾つか潰したかもしれませんが、覚えていません)
私は、「会社の歯車」であることを自覚しているからです。
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最近、私の会社では、この「特許証」を筆頭発明者に配布するのを止めよう、という動きがあるそうです。
処理が煩雑だ、とのことで。
うむ、それは仕方がないことかもしれない。
「会社の歯車」である私は、会社の方針に逆らうようなことはしません。
例外的、または個人的に、私だけにこっそり配布してくれれば、全く問題ありません。
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しかし、このやり方を、全社一律に適用しようとするのだけは、止めた方が良いです。
そんなことをしたら、今は眠っている、かつての大学の自治寮の寮長が、この時代に蘇えってくる可能性があるからです。
当時の「彼」は、彼の信じる正義(と利権)の為のであれば「テロリズム」を否定しません。
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私にも何が起こるか分かりませんが、
―― 多分、「彼」と「会社」の間に、相当な「不幸」が起きます。