今、読んでいる小説に、こんなシーンがありました。
『見ろ、海外から取り寄せた装飾品がやっと届いたんだ。白い肌のお前に似合うパーディのドレスだ。この靴も、ワルツを踊るときに映えるだろう』
『・・・結構よ。私、こんなもの・・』
『いったいどうして? 何が気に入らないんだ。お前は宝石も帽子も、何も欲しがらない。何を与えれば、お前は喜ぶんだ』
まあ、ステレオタイプの、いわゆる「分っていない」金持ちの夫と、若い妻の会話、といったところでしょう。
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『見ろ、現時点で最速のグリッドコアを搭載したパソコンだ。お前の計算しているGPSの測位をリアルタイムにするものだ。このGPSのフロントエンドもサンプリングの実時間捕捉を可能とするだろう』
『・・・結構です。私、こんなもの・・』
『いったいどうして? 何が気に入らないんだ。お前は最速のコンピュータも、テラバイトのハードデスクも欲しがらない。何を与えれば、お前は喜ぶんだ』
まあ、プロトタイプを作成することが技術者の喜びであると信じている主任研究員と、新人の研修員の会話、といったところしょう。
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で、私くらいの年齢の技術者になってくると、もう、欲しいものは、「有体物」ですらなくなってきます。
『いったいどうして? 何が気に入らないんだ。何を与えれば、お前は喜ぶんだ』
―― 課題よ。解決すべき課題よ。まだ世の中の人が気がついていないような技術的な課題よ。
―― 課題さえあれば、そして、それが、現存の技術を用いて解決可能な課題でさえあれば、
――『特許発明』は完成したも同然なのよ。
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『課題さえ見つかれば、発明は完成したも同然』とは、私の尊敬する知財部のNさんの言葉なのですが、
『至言』だと思います。