1993年9月20日
新神戸オリエンタルホテル9階、桐の間、午後3時30分
着なれない黒の礼服と白のネクタイ、スリーピースに繕って右のポケットに差し込んで いる白いハンカチが、少しだけ見えるように胸に手をやる。
スタンドマイクは心持ち低くセッティングされているので、下を眺めているような姿 勢になってしまう。
宴会進行係で裏方をやっているホテル専属のキャプテンであるMさんが入口の辺りで
ちらとドアの外を眺めた後、ひとまわり大きな真っ白いハンカチを上下に大きく振り、
司会者席に目線で合図する。
会場の照明がふっと弱くなる。
小さくうなずいて、ふうっと一つ息を吐く。
ゆっくり、大きな声でしゃべるんだぞ、と自分で言い聞かせ、大きく息を吸い込んで
いつもより1オクターブは高い声で一気にしゃべりだした。
「大変長らくお待たせいたしました。ただ今より新郎新婦のご入場でございます。どう
ぞ盛大な拍手でお迎え下さい。」