メールのやりとり(その3)



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メールのやりとり(その3)

コンピュータ通信は、パソコンやワークステーションが必要となりますが、世界のど こにいても、速くて数秒、どんなに遅くとも数時間以内に必ず手紙が確実に相手に届く という優れものです。また、同じ内容の手紙であれば何十通、何百通もの手紙を同時に 発信することもできます。

しかし、使い方を誤ると、とんでもない悲劇を起こすこともあります。

何しろ、会話のように手軽に手紙を送れる反面、その手紙はコンピュータにしっかり と記録され、いつまでも証拠として保存できるからです。しかも一度ポストしてしまっ た手紙は電気の速度で送られて行きますので、絶対に取り戻すことが出来ないのです。

ところで・・・

人間には、決してやってはならないことがありますし、同じ人間の中でも、『男と して』あるいは『女として』、決してやってはいけないこともあります。 

これはその中でも『男としてやってはならない』ことをコンピュータネットでやっ てしまった、私のエピソードの一つです。

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ある時、私は住所禄の再編を行おうと思い、全国各地のネットワークに入っている 知人達に住所確認のメールを配送しました。

私は住所録を自分のパソコンで管理しているので、その内容をその人送って変更等 がないかどうかを確認して貰うことにしたのです。

これは、大学の研究室の後輩に送ったときの話です。

------Send Mail from Imada to Ebata --------

こんにちは。今田(仮名)です。

前にメールにも書いたように、
私は、とっても良い先輩をもって、大変幸せだと思っていました。

ついさっきまでは。

江端>name{今田 佳子( いまだよしこ )}
江端>adress{351 H市K町5丁目12-31M寮153号}
江端>tel{0XX0-X1-7XXX(呼)}
江端>fax{IMADA@VA1.SOKE.KEI.OR.JP}
江端>で正しいでしょうか?訂正があったらフォロー下さい。

全然違います。

まあ、かつては、D大学機器研究室に江端ありと言われ、
ゼミ生のフルネームなんぞは全て記憶していると豪語し、
様々な素晴らしいネーミングをされた人ですからね。江端さんは。

そうか、あたしって”よしこ”だったんだ。
親には、”けいこ”って呼ばれてると思ったけど。

あー、悲しいよなー。
他ならぬ江端さんが、こんなに私のことを知らなかったなんて。
まあ、しょうがないか。
江端さん、私のこと嫌ってたみたいやし。

本当に、メールをみたときは、涙がでるかと思いました。
あっ、メールだ!という嬉しさから、ガラッと反転して落された、
こんな裏切りって、久しくなかったなあ。

まあ、とりあえず、
訂正していただかなくても、大した差障りはないので結構です。
メールも届くし、郵便物も届く。
そのままにしておいて下さい。

------ Send Mail End --------

この後、私が全身全霊を込めて謝罪をしたことは言うまでもなく、以下が私の謝罪
文の全文です。

------Send Mail From Ebata To Imada --------

ああ、分かっていませんね、今田さんは。
古今東西、男性が気にいった素敵な女性を最初に口説く時の手続きを。
¥ > >NAME今田 佳子( いまだよしこ )

勿論、これはATOKの誤変換でも、EGGの登録ミスでもありません。
私の「意図的」なサインであり、奥ゆかしい男性心理の現れなのです。

昔、小学生の時あなたが大好きだった男の子がいましたよね。そう、結構整ったか わいらしい顔立ちで、勉強も良くできて、女の子にとてもやさしくて、男の子同士で もとても仲の良かった、

そして、時々一人で教室の窓から青空を見上げていた、あの男の子です。

でも、あなたはあの子がとても好きだったけど、何をしていいのか分かりませんで した。伝える言葉もなく、もどかしく苦しかったあなたは、その男の子が一人でろう かを歩いている時や、下校するときには、必ず後ろから近付いては、満身の力でどつ きたおしていたでしょう?

でも、その子は困ったように微かに笑っても、決してあなたに仕返しをしようとし なかった。そんな大人びた態度に、なんだか割り切れない気持ちがこみあがってきて、 また、あなたはその子を、どつきに行きましたね。

あれですよ、あれ。
>まあ、かつては、機器研に江端ありと言われ、
そうそう。
>ゼミ生のフルネームなんぞは全て記憶していると豪語し、
うんうん。
>素晴らしいネーミングをされた人ですから。
その通り!!
>そうか、あたしって”よしこ”だったんだ。
>親には、”けいこ”って呼ばれてると思ったけど。

考えてもごらんなさい。私がそんなことを知らないわけがありませんよね?勿論聰 明な今田さんのこと、前例のない酷い人材の後輩たちを大量に無事社会に送り出した 江端が、その程度のミスをするわけがないのです。

すなわち、あのみえみえのミスは、私の予定では以下のように展開する予定でした。

今田嬢
「あー、悲しいよなー。
他ならぬ江端さんが、こんなに私のことを知らなかったなんて。
まあ、しょうがないか。
(江端さん、私のこと嫌ってたみたいやし。)←ここを削除、事実無根
↓ここから加筆
今度、東京でディズニーランドに連れていってくれて、その後、青山か六本木でお ごってくれたら許して上げよう。」

となって、

江端
「しかたがないなあ。じゃ、湾岸でドライブがてら、おごって上げるから連絡をよこ しなさい。」

と言う、自然な形を装ったデートのお誘いなのですよ。どうです。お互いが、特に大 きな苦労もなく、自然に会うことができるでしょう?

機器研ロボット班に一年も在籍し、一体研究室で何を学んでいたのかと、先輩の江 端さんはとても悲しい思いをしていると思いますよ。あなたが、大好きでたまらなかっ た男の子を蹴り倒さずにいられなかった、あのときの、苦しくて切なくて辛い気持ち を思い出して下さい。

------ Send Mail End --------

と言う訳で   教訓1

女性の名前を決して間違えてはならない。
間違えるくらいなら完全に忘れてしまった方が良い。

  教訓2
コンピュータネット上で過失の証拠を作ってはならない。
さもないと、何年もの間ネチネチと苛められるであろう。

 
なお、本文章中の内容につきましては、すでに今田(仮名)さんの許諾を得ており ます。



Tomoichi Ebata
Sun Feb 4 19:02:12 JST 1996