あのクリスマスイブの夜から、今の私は始まった、と思うのです。
生きねばならないこと。
明日奪われるかもしれない命なら、今日の自分の命を生きなくてはならないこと。
どのような瞬間も、私自身であるような生き方をしなければならないこと。
そして、いつでも自分が幸せであるように努力を続けること。
それが私を構成する世界の全てとなり、現在に至っています。
そのような生き方が、果たして自分を幸せにしているのかどうか、それはまだ分かり ません。ただ、私はいつでもこのような生き方をせずにはいられないのです。誰かが 私を駆り立てているような気すらします。
おおよそスマートな生き方からは遠い私ですが、それでもそんな私を受け入れてくれ る友人や後輩や先輩や同僚がいてくれることが、ときどき目も眩むように幸せだと感 じる事ができます。
と同時に、それが故にとても不安や心配になることもあります。
私は、今のところ信じる神を持たない身の上ではありますが、毎年クリスマスが近づ
く度に何かに祈ってしまう事があります。それは、いつでも、突然沸き上がってくる
強い強い想いです。
深夜残業を終えて、寮に帰る寒い冬の夜。
道路の真ん中でふいに立ち止まって、透き通った夜の空を仰ぎます。そこには、どの季
節よりも美しい冬の星が、冷たい光を放っています。
こんな日は思ってしまうのです。
どうか・・と。
『どうか、私を受け入れてくれた人たちが、幸せでありつづけることができます ように。』
『どうか、その人たちが、突然連れて行かれることがありませんように。』
時間の止まった、あの寒厳の冬の夜が、ふいにやってきては去って行きます。
そして、それが去った後の虚無の後、私はすがるような強い想いで願わずにはい
られないのです。
『来年も再来年もいつまでも、私が望むいつでも、笑顔の皆に会うことができま すように。』
『誰かが困ったときに、いつでも走って行ける私でありますように。』
そして、あの日と同じ凍てついた静かな冬の夜の中を、私は歩き始めました。
1993年12月24日
江端 智一