結婚式のスピーチ(その2)



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結婚式のスピーチ(その2)

ただ今ご紹介に預かりました、新郎新婦の大学及び大学院時代の丁度一年先 輩にあたります、江端と申します。まずは、新郎新婦のお二人のご結婚を心よ りお祝い申し上げます。後ほどこちらに出てきております、新郎新婦の同輩で ありますの田中、後輩の徳田よりご挨拶申し上げますが、まずは私よりお祝い のスピーチを送らせて頂きたいと思います。

私、このスピーチをお受けするに当たりまして、新郎と新婦に相談致しまし たところ、「楽しくやってくれ」と言う依頼でございました。そこで私も全力 を上げてそのように心がけております。もしお聞き苦しい点がございましたら、 それは私ではなく、新郎新婦のお二人の責任でございますのでご了承下さい。

まず、お二人に関することでございますが、彼らはこんなに結婚したいと願 望している大恩あるこの先輩である私を差し置いて、さっさと結婚してしまう 勝手な二人であります。あれは、彼らの大学卒業式の日の謝恩会の2次会新郎 が言いました。
「江端さん、僕たち10月10日に結婚するんです。出席して下さいますよね。」
「そうだねえ、都合がつけば出席させてもらうかもしれないな。」
「あ、そうですか。都合がつかなければ来ない。ああ、そうですか、江端さんってそん なに冷たい人だったんだ。 ねえ!」
と新婦の方に呼びかけると、
「江端さん、僕らの結婚式なんか全然来たくないんだって!!」
と話は拡大し、新婦がすかさず、
「え〜〜、江端さんってそんなひとだったんですか?酷いわ!」

今思い出しても、見事としか思わない、素晴らしい連携プレーでした。

研究室におきましては、新郎は担当教授から、それはそれは気の毒なほど虐 められていました。まあ、そうですねえこの教授をT教授、たとえば田中とか 戸高とかですね。それともう一人はI教授、一井だとか井戸田だとか石原だと か色々ございますが、この二人の教授に毎日徹底的にしごかれていました。

「江端さ〜ん、聞いて下さいよ。I先生が、例えば『いしはら』先生がこんな こと言うんですよ。」
私は彼の研究に対しては素人でございますが、それがとても困難なことである ことだけは分かりました。
「そんなこと、MIT(マサチューセッツ工科大学)でも、できていないんで すよ〜。」
つまり、このお二人のT・I両教授は、世界最高水準の研究を彼に押しつけ た訳でございます。

ちなみに私自身、両教授よりそのようなことをたくさんされた記憶がございま す。
ところが、このT・I両教授は誰にでも、このような攻撃をした訳ではない ようなのです。そこで私、研究室のこのような攻撃の的になっ た数少ない学生を過去数十年に渡って検索し、考え得る様々な方面から検討し、 徹底的な解析を行いました。そして、この度ようやく一つの結論に至りました。

それは、「研究室を代表する極めて優秀この上もない学生」のみを攻撃するこ とだったのです。
つまり一見ただの弱いもの虐めに見えた両教授の攻撃は、実はそれに耐え得る 優秀な知性を有する、将来を嘱望された学生に限定されていたのです。

思えば、新郎も私も控えめに言いましても、本当に優秀な学生でございまし た。
松下電工さんのところで一緒に働いている方ならご存知だと思いますが、彼が 少なくとも5年以内には学会を震撼させるような研究を発表するであろうこと は自明でありますし、私も僭越ながらそのように噂されているようでございま す。
今はただただ両教授の先見の明に驚かされるばかりでございます。

一方新婦の方はと言えば、これまた研究室において独特のキャラクターでご ざいました。新郎のどたばたした日常に対しまして、実に、もの静かでおしと やかなお嬢様でございました。最初の半年くらいこのお二人が恋人どうしであ るなど夢にも思わなかった私でございます。もしかして、この子は良家の御令 嬢でいらっしゃって、我々下々のものは口を聞いては恐れおおいのではないか と思ったほどです。

後ほど、これが巨大な勘違いであることは分かったのですけど。

これほど対象的な性格のお二人が、どのような季節の中を共に歩んで今日の この良き日に至ってきたのかは、私の後輩であるこの二人にしゃべって貰うこ とにしたいと思います。

新郎新婦お二人の未来はきっと明るい。なぜと聞かれると返事に困るが「そ うに決まっている!」と強く思う、私、江端です。

お二人の末永いお幸せを、心よりお祈り申し上げます。ご静聴ありがとうご ざいました。



Tomoichi Ebata
Sun Feb 4 19:02:12 JST 1996