結婚式のスピーチ(その1)



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結婚式のスピーチ(その1)

ただ今ご紹介に預かりました江端です。 私と福嶋君は、大学時代の友人でありまして、福嶋君には本当にお世話になりました。
さて、話を短めにしろと言うお達もありましたので、福嶋君に関するお話をしたいと思 います。

福嶋君のことを説明しようと思ったら、軽く3日はかかると思います。

例えば、数日家出をして私の下宿に転がり込んでいたとか。
例えば、ハンドルを握った彼には言葉は通じないとか。
例えば、スキーを始めて3日めにチャンピオンコースを滑っていたとか。
と思えば、
例えば、解析学試験直前講義で、そのへんにいる友人が無事進級できたとか。
例えば、大学を次席で卒業したとか。
例えば、単身で大学院の試験に挑戦するとか。

私たちは、大学院在学中に、予備校講師のアルバイトをしていました。その予備校は全 国各地にありまして、私たちは週末になる新幹線や飛行機に乗っては、出かけていって バイト代稼ぎに励んでいました。

2年前の姫路の予備校に行ったときです時です。私がいつものように福嶋君を誘って昼 飯を食べに行こうとしていたときです。
「福嶋さん、昼飯食べに・・・、ん?どうしたの、それ?」
福嶋さんは、相談室の机の上で、お弁当を広げているではありませんか。それはどこを どう見ても明らかなように、綺麗にコーディネートされた手作り弁当でした。
「ん・・ああ、これな、今朝早く起きて、僕つくったんだ」
「へええ、自分で。大したもんだね。」
なんて、今思えば、感心している私の単純さがどうかしていたのです。私の下宿で鍋を するときすら、野菜を洗うことに徹していた彼が、弁当など作れようわけがなかったの ですが。言うまでもなく、それは琴之さん手製のお弁当であったのです。彼が黙ってい たのは身の危険を感じていたからかもしれません。

1年前、今度は徳島の予備校に行った時のことです。
ちなみに私たちが週末になると飛ばされたところは、いちばん近くて姫路、最も遠いと ころでは、高知、横浜なんてのもありましたね。バイト代のためとは言え本当によくや っていました。
仕事が終わってから、私たちは居酒屋にご飯を食べに行きました。
そこで少しお酒が入ってから、福嶋君はおもむろに
「江端さん、ちょっと聞いて欲しいのだけど。これ、誰にもしゃべってないのだけど」
「何?」
「絶対、絶対、絶対、誰にもいわんでおいて欲しいんだけど」
「・・俺も、男だ。そこまで言われたら決してしゃべらないと誓おう」
「本当だね」
「約束する」
「あのな、僕な結婚するんだ」

いやーびっくりしましたね。ほんと。つき合っていると言う話は知っていたのですけど 、結婚とは・・。正直ショックでもありました。
しかし、これぞ、男冥利につきると言いましょうか。こんな大事な話を私にだけに打ち 明けてくれるなんて、本当に嬉しかったですね。
で、出張から帰ってきても、私は約束通りとぼけていたわけですよ。福嶋近頃なんか変 だね。つき合いも悪いしね。江端何か知らない?と言う質問にも、そうかな、そんなこ とないんじゃないって感じで。
しかし、一月後、この極秘中の秘密がいつの間にかリークしていたのです。私は慌てま した。福嶋君との友情に傷が入ってしまうかも知れないと思ったのです。私は、話の発 生源を求めて、学校中をさまよいました。そしてついに発生源を突き止めたのです。
「一体誰に聞いたんだ!」
「福嶋だよ。」

私は、この事件以来彼に対して2つの教訓を得ました。
1つ、彼は、自分の幸せを黙っていることができない。
2つ、彼は、大切な秘密を打ち明ける友人がたくさんいる。

彼が結婚を決めてからとからと言うもの、「電話するのが面倒くさい」とか「自分の時 間が持てない」とか、幸せ一杯の顔でしゃべっていたことは、言うまでもありません。

福嶋君は忘れているかも知れませんが、私は失恋直後だったので忘れていません。

絶対に忘れませんからね。

最後に琴之さんに申し上げます。
誓って言えるのですけど、福嶋君は天地が裂けたって浮気の出きる器用な人ではありま せんので、その点は大丈夫ですが、仕事にかまけて何も目に入らなくなる可能性は非常 に大きいです。そんな時我々にご一報頂ければ、深夜を徹した徹底的な拳の説得で、無 事琴之さんのもとにお返ししたいと考えております。

お二人の末永いお幸せを心の底から祈っております。



Tomoichi Ebata
Sun Feb 4 19:02:12 JST 1996