大学の研究室のゼミの旅行のバスの中で、私が、「入門『右翼』」という本を読んでいた時のことです。
「江端さん。今度は一体何の本を読んでいるんですか」
と、後輩に呆れたように声をかけられました。
「いやね、私、かつては、大学の自治寮の寮長なんてやっていた訳じゃない」
「それが?」
「いつか、寮の会議の時、寮生のほぼ全員が『自分達の行動は普通である』と発言して、どうやら彼等は、それを本気で信じていたみたいなんだよ」
「・・・はあ」
「世の中の過激派やテロリストはさあ、誰もが自分の思想が『偏っている』とか、『世間から離れている』とは、全く思っていないから、あんな無茶苦茶で非道なことができる訳だよね」
「・・・」
「でね、先日、私の友人の一人が、『江端の考え方が、左傾化しているのは、やっぱり自治寮で寮長なんかやっていたからだよね』と教えてくれた訳」
「・・・江端さん、この話、長くなりますか?」
「もうちょっとだけ、我慢して聞いて」
「・・・分かりました。続けて下さい」
「つまり、友人が『私が左傾化している』というなら、やっぱり私は『客観的に思想が左傾化している』と思うんだよ」
「で?」
「ならば、この本、入門『右翼』でも読めば、ちょうどバランスが取れるんじゃないかと思って」
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後輩は、苦悩の表情をしながら、額に指をあてて、目をつぶって、暫く考え込んだ風な仕草をした後で、おもむろに語り始めました。
「・・・あの、ですね。江端さん」
「ん、何?」
「江端さんは理系の人間ですから、『塩と砂糖を混ぜると真水になる』とは、まさか思っていませんよね」
「そりゃ、勿論」
「江端さんがやっていることは、『塩を入れすぎた料理に、砂糖を入れて修復を図ろうとしている素人料理人』と同じことです」