第一章 結婚式



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第一章 結婚式

新幹線に揺られること約3時間。

修学旅行で訪れて以来、十数年ぶりの京都。

式の始まる30分前に同志社大学に到着した私は、控室で待機していた。

招待状にはカジュアルな服装でどうぞ、と書いていたから、素直にカジュアル な格好で控室に入っていったら、新郎・新婦の親類らしき人が大勢いて、これ がみんな礼服。

「なに、この人?」という視線が痛い。

確かに、紫色のサングラスは、我ながらいかがわしいとは思う。

控室には顔見知りが一人もいないので針のムシロ状態。

誰か早く来てくれ、との心の叫びも虚しく、最後まで助け船は来なかった。

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開始時間が近づいたので式場に向かう。式場前で市森・牧両氏と遭遇。 なぜ控室に来てくれなかったんだ、と思いつつ見渡すと坪井氏がいない。 ギリギリまで待ったが、来ないので先に3人で式場に入る。

入口には、おお、今まで写真でしか見たことのなかった新婦がウェディング ドレスで出席者を迎えているではないか。

それは、ホログラフィーでもなければポリゴンでもなく、回りくどく言えば 24bitフルカラー3D毎秒60フレームで動いており、簡単に言えば生身の 女性であった。

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チャペルは500人収容可能とかいうが、それほど大きくは見えない。

良く言えば伝統が感じられ、率直に言えば古色蒼然という感じで、歩くと 床がギシギシと鳴る。

3人揃って狭い椅子におとなしく座っていたら、遅れて坪井氏登場。 坪井氏も牧氏も礼服を着用している。裏切り者、と心の中で罵る。 結局、くだけた服装で出席したのは、(男では)私だけのようだった。

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式が始まると、最前列の席から男がスッと立ち上がる。

その人物こそ、江端智一その人に他ならない。

そんな所にいたのか、と私は驚いたが、より驚愕すべきことは、彼の表情・ 服装・髪型・そして全身から醸し出す雰囲気が、

凛々しい

という事実であろう。

私は思わず、「ステキ!」と、黄色い声をあげそうになったほどである。

江端の実像を知る私には、目の前10mほどの位置に立つその人物が、あの 江端であることが信じられず、この事態を合理的に説明する理屈を必死に 考えていた。

そして遂に、充分な整合性をもった結論が得られた。

そういえば、あいつ演劇部だったよな・・・。

左様、彼は式の始まりから終わりまで、一貫して凛々しい男を演じ続けた のである。とりわけ彼の役者魂がスパークしたのは、宣誓の時であろう。

 

いよっ、日本一! と私は心の中で叫んだ。

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式の中ほどで、神父(牧師?)が聖書の「コリント人への手紙」を朗読した。

それは、フィジカル・リーディングな人間を大いに挑発する、まさに噴飯物 の内容である。

「愛とは・・・」「愛によって・・・」「愛がなければ・・・」

えーい、黙れ黙れ!!

私が市森氏の方を見ると、彼も私の方を見て首を振っていた。 きっと彼も同じ事を考えていたに違いない。

いきり立った我々を、間に入った牧氏が、まあまあ、となだめる。

朗読をおとなしく聞いていた坪井氏が唐突に、

「コリント人って誰?」「コリント人と友達になりたい」「俺の結婚式にも コリント人を呼ぼうかな」などと、訳のわからない事を言い出す。

疲れているね、坪井さん・・・。

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世に結婚式を司る神父や牧師は多い。

新郎・新婦がクリスチャンならば特に問題はなかろう。

だが、新郎・新婦共クリスチャンではないことが判っていながら、そして、 挙式後も入信することなど決してないことを百も承知でいながら、専らゼニ のために結婚式を司る神父や牧師は後を絶たない。

私こと聖ヨハネえるかん菩薩は、かかる神への冒涜行為を座視できぬ。 ここに、神と子と精霊の御名と、ついでに大日如来の名にかけて、かかる 悪魔の運命を予言しておく。

彼らはその身をゲヘナの業火に焼かれ、その魂は六道地獄を彷徨し、次に転生した時 はフジツボになるだろう。

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無事に式も終わり、チャペルの前で記念撮影となった。

まずは親類縁者の方々から。

我々四人は、遠巻きにその光景を眺めていた。

同志社大学がヤソ教系の大学であることを初めて知った私は、
「同志社では、合格しながら他の大学へ入学した受験生をユダと呼ぶ」だの、
「留年した奴は、転びキリシタンと呼ばれ迫害される」だの、
相変わらず進歩のない冗談を飛ばしていた。

それをいさめる牧氏。
その場に調和しない、唐突な感想を述べる市森氏。
その横で「コリント人・・・」と呟く坪井氏。

四人の人生にとって、おそらく何の意味も持たない、いつも通りの光景が展開 された春のひとときであった。

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Tomoichi Ebata
Wed Apr 17 13:29:08 JST 1996