結婚式のスピーチ(その3)



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結婚式のスピーチ(その3)

先ほどご紹介に預かりました、新郎吉田成臣さんの大学時代の電気機器研究室の後輩 に当たります、江端と申します。まずは今日の良き日におかれまして、お二人の御結婚 を心よりお祝い申し上げます。

もはや、電気機器研究室の元研究員の結婚式では、ウエディングケーキのカットが無 くとも、この私、江端のスピーチが無くなることはない!とまで、呆れるほど定番にな った私のスピーチ。数々の研究員たちの赤裸々な学生時代を一切の虚構無く、白日の元 に晒す暴挙に出ております。こちらに控えております、後輩の一井のスピーチを担った のも、不詳私、江端でございました。

それでも敢えてこの私にスピーチを依頼してきた新郎の意図は何か?それは、ここで かしこまっている新郎の真の姿、本当の自分を、ここにいらっしゃる人々にあまねく知 らしめて欲しいと言う、新郎の叫びではないか、と私は考えるのであります。

そんな訳で、新郎の意図をくみ取り行うスピーチは、もしかして皆様にお聞き苦しい 点もあろうかと思いますが、その責任については、言うまでもなく全て新郎吉田さんの 責任にあります。どうぞその点を御考慮下さいますようお願い申し上げます。

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さて、長い前置きはさておき、本日の題目である「京都の夜は俺が買い取った!」と は一体何か、皆様にお話をさせて頂きたいと思います。

大学院に進学することを決めた私がどうしても一つだけ困っていたこと、それは学費 でした。どうやって生活をしていけばいいのか途方に暮れていた私に声をかけてきて くれたのが、何を隠そう吉田さんでした。吉田さんは当時勤めていた学研と言う予備 校みたいなところで講師をしていましたが、その仕事を私に紹介してくれたのでした。 私は吉田さんの紹介で軽く採用が決まりました。月曜から金曜までは大学の研究室で 研究に集中し、週末の土曜日曜だけこのアルバイトを続けていました。短時間で高収 入を上げるこのアルバイトのおかげで、私は学費は言うまでもなく生活費までも賄え るようになってきました。このように吉田さんのおかげで、私は安心して大学院で勉 強を続けることができました。

しかし、この話はここで終われば結構美しいお話なのですが、この話には続きがあり ます。この学研は、大阪京都はもとより、姫路、広島、高知、高松、東に名古屋、静 岡にもありました。学研大阪は、各地でそれぞれのバイトを雇うことなく、大阪から 人を派遣させていました。このような遠隔地の出張は、寝台車、飛行機を使って移動 を行い、出張手当が結構美味しくはありましたが、大変面倒なものでした。しかし、 ここにそのような遠隔地出張にも一向にめげずに、暇を見つけると高知であろうと広 島であろうと、どこにでも出かけてしまい、以後学研と機器研究室で伝説的な人物と なった人がいます。

吉田さんです。

そして、先輩の背中を見て自ら学ぶこの私も、同じ様にアルバイトの鬼と化しました。 そして、この後わずか数カ月で、吉田さんと私の二人は、学研の利権を欲しいままに したのでありました。

これがあの伝説の『吉田財閥』の誕生です。

さらに吉田さんが大学院の2年、すなわち私が大学院の1年生の時、吉田さんは『財 閥』の名を私に襲名し、私は『江端財閥』となり、吉田さんは自ら『吉田コンツェル ン』と名のるようになりました。

この後、私は、京都北白川のラーメン屋「天下一品」のコッテリラーメンに、3ピー スの鶏の空揚げを毎回付けると言う、非常にブルジョワ的な堕落した生活を送ります。 また吉田さんは、同志社大学生協の食事に飽きたらず、京大生協の焼きそばを食べに 出かけるという、挑発的な行動に出ていたようでした。

さらに、私は京都岩倉にある自分のアパートで、名古屋名物味噌煮込みうどんパーテ ィ、カレーライスパーティ、シチュウパーティなどを開催し、吉田さんは言うまでも なく、ここにいる東野さん、あそこにいらっしゃる森野さんなども、華々しく原付で 参加されておりました。

吉田さんも私も、就職と同時にこの利権を失い、ただの社会人となり、平凡な市民と して過ごしております。しかし、このように吉田さんから私に受け継がれた学研アル バイトの利権は、隣に控えております一井に受け継がれ、さらに次の世代に至っては、 学研の事務所で働いていた女の子を口説き、ついに婚約までしてしまったと言う者ま でいるとか。

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吉田さんの卒業式のその日、私たちはここにいらっしゃる、戸高、石原両教授の謝恩 会が終わって、私たちは店の外に出ました。その日は、小寒い風が少し吹いて、桜の つぼみが、ほんのりと香る夜でした。はっきり覚えていませんが、月の光で明るい夜 だったように覚えています。ほろ酔い心地の私と吉田さんは、一緒に肩を組んで歩い ていました。そして、吉田さんは、私に向かって大きな声で言ったのでした。

「よし!江端!今日は全部俺のおごりだ!!、京都の夜は俺が買い取った!!」

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このように、私たちの研究室の多くの者達の生活を支え、時としてお嫁さんまで確保 してしまう、機器研究室の影の立て役者、吉田さん。もはや吉田さんは『吉田財閥』 とも『吉田コンツェルン』とも言われませんが、私はこの吉田さんに最大の尊敬をこ めて、これからは『フィクサー吉田』と、『闇将軍吉田』と呼んで行きたいと思って います。

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最後に新婦まゆみ様に申し上げます。

吉田さんが学生時代に稼いだと考えられるこの多額の財は、我々の調査の結果、未だ 地下に眠っていると考えられます。早急に調査を行い、新しい家庭を作る資金として 活用して頂きたき、その一部を私の方へ、あるいは、このような内部告発に及んだ私 の功績をお認めになるのであれば、お友達を紹介して頂いても構いません。

くだらない話を長々としてしまいましたが、ことの真偽に関しては新しい御家庭にお 任せすることとしましょう。お二人の末永いお幸せを心の底から祈って、私のスピー チとさせて頂きます。御静聴ありがとうございました。



Tomoichi Ebata
Sun Feb 4 19:02:12 JST 1996