ベストセラーとなった、「話を聞かない男、地図の読めない女」を夫婦で読ん で以来、嫁さんは、旅行中のナビゲーション担当を完全に放棄してしまいまし た。
この本は、全女性から「地図を読む」と言う生活必須の行為を放棄せしめ、 彼女らに、地図が読めないことを正当化させてしまったと言う意味で、焚書に 値する悪書であります。
私は、サンフランシスコや、ロサンゼルスの高速道路を、時速75マイル (120km)で運転しながら、コンマ1秒以内で、地図とGPSの座標を同時に読み取 ると言う、ある意味『サーカスの綱渡りなんぞ、なんぼのもんじゃ』と言う程 危険なこともせざるを得なくなってしまいました。
一方、この本が主張する(「話を聞かない男」と言うのはよく分からんが)、 「冷蔵庫の中にあるマヨネーズを見つけだせない」「箪笥から該当のジーパン を探り当てれない」などは、恐しい程に当っているため、嫁さんのナビゲーショ ン担当の放棄をあからさまに批判できない私がいます。
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私が中学の頃、「技術家庭」なるクラスがありました。
男子と女子が分かれて講義を受けると言う、時代錯誤も甚だしい ---- と言 うよりも、今になって思えば、無益な区別をしていた授業がありました。
当時の文部省は、現在の結婚の高齢化、結婚率の低下、離婚率の増加などを 全く、予測できなかったのしょうか。
勝手な言い分かもしれませんが、先見の明のない役人だ、と思います。
男子生徒と言う理由だけで、使いもしない本箱や、実用に耐えないドライバー やらを作らせて、一体どうする。
そんなもんなくても生きていけます。
生きることの基本は、飯です。
栄養バランスの悪い外食に頼らないように、先ず自炊から教えないかんでしょ うが。
一体、何の為の義務教育だ。
私のように、一月に一度、市民サークルの「男の料理教室」に通っていたよ うな人間は特殊な部類に入るので除外するとして、アパートに帰ったら、ピザ をレンジで暖めるだけの夕食、あるいは、ソーセージを突込んで煮たてるだけ のスープを喰うような大量の男達を、文部省はどう捉えているのでしょうか。
上記の話が嘘だと思うのであれば、私は、日立の各事業所からアメリカに来 ている独身男のサンプルを、山ほど提出してみせます。
まあ、とにかく、ここで私の主張したいことは、数学も英語も大事かもしれ んが、先ず、家庭科(と言うか家政学)を徹底的に叩き込まねば、今の世代は勿 論、次世代の日本も非常に危うい、と言うことです。
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私は、国語と技術家庭のカリキュラムに、それぞれ次の2項目の追加を提言 したいと思います。
それは、「マニュアル学」と「配線学」です。
太宰も芥川も漱石も良いだろうが、それより先に、マニュアルの読み方を教 えなあかんだろうが、文部省。
『マニュアルの内容は、わからん』と言う奴の話をよく聞いてみると、一度 もマニュアル開いていなかった、なんてふざけた話はざらにあります。
こういう甘ったれを叱り飛ばすのは易いですが、それでは何の問題解決にも なりません。
実際、マニュアルの内容が判りにくいのは事実です。
その理由としては、マイコンを使った各種製品の高機能化、それに共なうユー ザインターフェース(ボタンやらスイッチ)数の増大が挙げられます。
限られたインタフェース(例えば3つのスイッチ)で、100以上の機能を実現す るには、そのスイッチの時系列方向の組み合わせに依存するしかありません。
具体的には、『Aのスイッチを2秒押し続けながら、Bのスイッチを2回押し、 最後にCのスイッチを、電子音がするまで押し続ける』等。
はっきり言って、こんな操作は、普通の人間には無理です。
しかし、それが可能な人間もいます。
その製品の製作者と、マニュアルの執筆者です。
なんったって、彼等は、その製品の開発過程で、100を越えるマイコンのパ ラメータを同時にトレースし、デバッグを行っているのです。
製品のインターフェースなんぞは、それらのパラメータのほんの一部に過ぎ ません。
彼等の感覚からすれば、「マニュアルの内容が判らん」と言うこと自体が判 らんでしょう。
これらの根本的な解決方法は、100以上の機能を、5つ以下にすることですが、 他社製品との競争上、むやみに機能を落すこともできません。
しかし、この「機能」の件に関しては、購買客も悪いのです。
日本中が、バブル景気で踊り狂っていたとき、私は、ファジィ・ニューロ制 御の炊飯器や洗濯機や電子レンジを作っていました。
ファジィ・ニューロ制御が、一体どのようなもので、本当のところ、どれほ ど役に立っていたか、私は本当によーーーく知っていました。
ファジィ・ニューロが、本当に旨い米を焚くことが出きたかどうか ----- 私は、この秘密は自分の墓の中に持っていくつもりですが ----- は、さてお き、「ファジィ・ニューロ機能」と書かれていれば、客はそちらを購入したの です(と言うか、こう書かないと売れなかった)。
技術者の立場からすれば、 『高機能を要求すれば、その操作が難しくなるのは、当たりまえではないか!』 『己の頭の程度と相談して、製品を購入せんかい!!』
と言いたいこともありますが、メーカーの社員の立場では、そのようなこと は口が裂けても言えません。
で、「これっきりボタン」とか出てくる訳ですが、それについては、いずれ またの機会に。
マニュアルの話に戻ります。
どだい、技術者の理系的発想で記述されたマニュアルが、読みやすいものに なる訳がないのです。
技術者は、「動かないのが当たり前」「動かすのが仕事」と言う認識で、技 術開発をしています。
「電源入れれば、動いて当たり前」と考えるユーザと同じ視点に立てる訳が ない。
ですから、ここは、一つ文系的な見地から、マニュアルを見なおす必要があ ると思います。
私は以下の事項を提案します。
文部省は、まず全国の国立大学に、「文学部マニュアル学科」を設立し、体 系的なマニュアルについての学問を推進します。
次に、義務教育過程に、「マニュアルの読みかた」と言うカリキュラムを導 入します。
中間、期末の国語のテストには、次のような問題が出されるようにならなけ ればなりません。 設問10 以下のマニュアルを読んで、問に答えなさい。
ethereal-*-non-capture.zipでは、パケットキャプチャはでき
ないので、ethereal-*-capture.zipのほうを落とします。
この段階で、c:\bin\etherealには、2つのzipファイルがあるはずで
す。
これを、c:\bin\etherealの中で展開します。
ethereal-0_8_8-capture.zipの方が、ディレクトリを掘ってしまうの
で、展開後にc:\bin\etherealのディレクトリを作って移動させて下さい。 (1)以下の単語の読みがなと、意味を書きなさい。
読み 意味
zip ( ) ( )
bin ( ) ( ) (2)このマニュアル内の、2個所の不適切な表現を選んで、それぞれ正しい文章
に直しなさい。 (3)このマニュアルを書いた作者の心情を30文字以内で記述しなさい。
受験用の参考書としては、「やさしいマニュアル学」「精解マニュアル解読」 などが出版されることでしょう。
マニュアルは、「読む」「理解する」の次元を超越して、「感じる」ところ まで高みに至る必要があります。
『あのマニュアルは、泣けた』とか『私の人生を決めたのは、この一冊のマ ニュアルです』と言う発言が日常会話で普通に出てくるようになるまで、マニュ アル学は、高まる必要があると思います。
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次に「配線学」について述べます。
テレビ、ビデオは勿論、パソコンなど、今や「配線できぬもの、文明人にあ らず」は、もはや誇張でも何でもなく、事実、配線ができないと、人並にAV機 器や電子メールを楽しむことすらできません。
女性はこの配線に関しては弱い、と断言して良いでしょう。
一方で、男性は、収納に関しては、致命的なほど無能です。
理由はよく分からないのですが、女性はスカラー量には強く、ベクトル量に は弱く、男性はその逆、と思われる場面が多いです。
配線とは、つまるところ「流れ(ベクトル)」を理解するだけのことなのです。
例えば、ビデオデッキを例に上げれば、 (1)映像を流し出すところと、それを受けるところ(テレビ)がある (2)音声を流し出すところと、それを受けるところ(テレビ)がある (3)その映像と音声を受けとるところと、それを出すところ(アンテナ)がある。 (4)電気を受けとるところがある。
と4つの「流れ」があり、それを正しく流すように線を継いでやれば、必ず ビデオは動くのです。
ところが、配線が苦手な人は、この(1)-(4)が、頭の中で大混乱している訳 です。
で、結果として何をしてしまうか。 総当たり戦
を実施してしまう訳です。
映像出力端子、映像入力端子、音声出力端子、音声入力端子、NTSCケーブル 2本、アンテナ線用同軸ケーブル、これにS端子でもついていたら、配線の組み 合わせは、軽く100を越えるでしょう。
ビデオごときで、総当たり戦を実施している人に、パソコンの組み立てなん ぞやらせたら、組み合わせ爆発は必至。
パソコンが動き出すのに25世紀くらいまでかかってしまう。
このような「配線問題」に関しては、現状2つのアプローチがあると思われ ます。 (1)「配線は素人にはできない」と割りきって、「配線サービス」と言う新し
い産業の育成に力を注ぐ (2)「配線学」を義務教育課程に組みこむ の2つです。
しかし、私は、(1)の「配線アウトソーシング」が、一つの産業になるのは 難しいであろう、と推測しています。
3万円のビデオデッキに、出張費と拘束時間を考え、安く見積っても1万円以 下にはならないであろう配線サービス料金を、本当にエンドユーザは払えるだ ろうか。
そもそも家電製品と言うものは、大量生産によるコスト低減を掲げて製造さ れるものです。
激しいコスト競争の中で扱われているこれらの家電製品は、それ自体、ソフ ト的なサービスとは合い入れません。
ソフトサービスをエンドユーザに押しつけて、コストダウンを図る。
これが家電製品の市場原理なのです。
上記の分析が示すことは、当面の間、「配線問題」は、独力、あるいは、プ ライベートな極めて狭い範囲の人間による解決しかありえない、と言う悲観的 な結論となります。
ですから、私は(2)の「配線学」を義務教育課程に組みこむしかないと思い ます。
ラジカセの操作は、小学3年生までに、
ビデオデッキは、小学6年生までに、
パソコンの組み立て(周辺機器付き)は、中学3年までに体得することを、今 からでも遅くはありません、是非とも文部省は、技術家庭課程のカリキュラム として採用することを、検討して貰いたいです。
日本のIT化を本気で考えるのであれば、これらのことが実施できない児童、 生徒は、留年もやむなし、との処置でお願いします。
「炊飯器で飯が喰えず餓死」「メールが使えず孤独死」などと言う、ハイテ ク家電が引き起こしかねない悲しい事件を回避するためにも、国は断固とした 姿勢で、接続学の取得を国民に課して貰いたいと切望します。
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あながち、大袈裟でもないのです。
電子レンジに猫を入れて、乾かそうとした主婦の話を例に上げるまでもなく、 (赤ん坊でなくて、本当によかった)、パソコンのプリンタの設定ファイルと、 ISPのプロバイダの接続設定を壊してしまい、アメリカに行ってしまった息子 の帰省を1年以上も待っている、実家の両親たち ----
そして、紙切れが判っていても、補充されないFAX。
設定方法が分からず、いつまでも動き出さない全自動洗濯機。
マニュアルの例文を、2回印刷しただけのワープロ
ユーザにとっても、製品にとっても、これは悲劇に違いあません。
そのような悲劇を、この日本からなくす為にも、私はここに声を大にして、 「マニュアル学」と「配線学」の、速やかな導入を提言したいと思います。
(本文章は、全文を掲載し内容を一切変更せず著者を明記する限りにおいて、 転載して頂いて構いません。)