「ドキュメント『停滞党崩壊』」
エルカン、江端共著
6月18日未明 (ロイター発共同)
「党首の許容する範囲内での言論の自由」を旗印として、リベラルな革新政党を標傍する日本停滞党の幹部会議において、この度、『日韓ワールドカップにおける停滞党見解』の発表の自粛が17日深夜、神奈川県にある電気メーカ社宅内の停滞党党本部において決定されていたことが、関係筋より明らかになった。
これは、電子メールを印刷したメモが、社宅の裏のゴミ捨て場に無造作に捨てられているのを、同社の社員が発見したことから、一連の事実関係が明らかとなった。
メモには、以下のような記述が見られる。
党首:「まあ、今の時期に、ワールドカップに不満を表明するのは、言論統制下の特別高等警察(特高)がはびこる戦時下の警察国家より、危険な状態にあることは認めざるを得ないであろう」
導師:「確かに。スズメバチの巣に石を投げるよりも、ピラニアの放流された川を裸で泳ぐよりも、嘆きの壁に立小便するよりも、もっと危険かも知れん。渋谷や六本木で盛り上がっているサポーターのど真ん中で、『日本負けろ!』と叫んだら本当に殺されかねない」
このように、停滞党幹部が、現在の日本のワールドカップフィーバに恐れをなし、自らの主張を自粛し、日和っている様子が生々しく記録されており、関係筋によれば、今後停滞党党員の大量離党は避けられないとのこと。
本社のインタビューに対して、停滞党党首は「事実無根であり、自民党と共産党とCIAとKGBの陰謀である」などと訳の分からないコメントを繰り返しており、「停滞党は、日本のサッカー協会、プロ野球協会、全国高校野球連盟に対して、建党以来、終始一貫してその支援の姿勢を崩していない」と主張している。
警視庁は、ワールドカップの閉会式を待ち、停滞党党首および導師に、事情聴取を兼ねて、任意動向を求める方針を明らかにした。
-----
6月19日昼 (新華社通信)
警視庁は、『日韓ワールドカップにおける停滞党見解』に関する一連の事件より、停滞党中核に近い党員より警視庁の関係筋への接近があり、内部告発の形で証拠テープが手渡されたことを、この度明らかにした。
テープを渡した党員は「党首の日和見主義に愛想を尽かした」を述べており、発足当時「停滞主義宣言」で一世を風靡した停滞党の崩壊も、今後時間の問題となりそうな様子。
問題のテープからは、党首と導師による次のような生々しい会話が、3時間に渡って録音されていた。
・サッカーを「球コロ遊び」と侮蔑した上、選手は犬猫に等しいと嘲笑。
・他国に対する露骨な差別発言。
・特に某国サッカーチームに対しては「お前らが飛行機を持っていたとはなぁ」などと国際問題に発展しかねない不用意な発言。
・朝から晩までW杯の報道しかしないマスコミを馬鹿呼ばわり。報道に従事する人間としての資格なし、と一刀両断。
・熱狂するサポーターを「愚民ども」と罵倒。これだけノセられやすい国民だから、デマを流して革命を起こすのは簡単だね、と停滞党の政権奪取計画を熱く語り合う。
・FIFA会長の暗殺計画も浮上。
このような停滞党幹部の発言によって、停滞党内部の右派の反発は必至の様子であり、既存政党の自民、民主、公明の保守党のみならず、社会、自由の野党からも「停滞党を相手にせず」との公式声明が出される予定。共産党は態度を保留しつつも、マルクス・レーニン主義に基づく停滞党批判を近日中に発表するとの声明を出した。
右翼のテロの情報に対して、警察は静観の構え。警察庁長官は、夕方の会見で「日韓ワールドカップを批判する日本人は存在しない。したがって、警察は日本人でないものの安全を守る義務はない」と、テロを容認する発言を発表。政府与党は、「国民感情を鑑みて、やむを得ない措置」と、これを追認する形となった。
停滞党党首は、現在、在日中国領事館への亡命を希望しているが、中国政府は、「日中関係に悪影響を与えるもの」としてこれを拒否。停滞党党首が、領事館にかけこんで来た場合「違法入国と断定し、その場での射殺も辞さない」との強行な姿勢を示している。
-----
ドキュメント『停滞党崩壊』
停滞党の崩壊は、この一文から始まった。
「ああもう、うざってーなW杯!」
(続く)