第8章 I want what you want.



next up previous
Next: 第9章 Special Finale Up: 一枚の絵 Previous: 第7章 Opening

第8章 I want what you want.

出席者はここでようやく落ちついて食事を始めることになるのであるが、私は新郎と も相談した結果、食事をしないことにした。しかし、運ばれてくるアルコールの類を 片っ端から飲みまくっていたので、キャプテンが心配そうに私を見ていた。

ようやく場も和んできて、テーブルごとに盛り上がっているようである。次の私の仕 事は、祝辞を行う来賓の方の紹介である。

新郎の中学時代の担任の教師の方は、「新郎は中学校でとても女の子にもてた」、と 言う話を様々な話を交えて話していた。また、新郎の職場の上司の方は、新郎が徹底 した秘密主義者で、少しも結婚の話を出さなかったことを、少し恨めしそうに話して いるように見えた。

新婦の友人の方は、「つわりで卒論が書けなかったときに、新婦に手伝ってもらった 」と言う話をされてた。私はどうしたら気の効いたコメントができるのか、散々悩んだ すえ、「大変、楽しいお話をありがとうございました」と逃げたのであった。

スピーチが一通り終わったところで、キャプテンが私に目で合図をする。

「ご歓談が弾んでいらっしゃいますところを、大変恐れ入ります。ただ今より、新郎 新婦はお色直しの為に中座いたします。約20分後、二人仲良く再登場致しますので、 どうかご了承下さい。」

二人が退場すると、私は待ちかまえたかのように用意して貰ったサンドイッチにかぶ りついて、ウエイターが注いでくれたワインやウイスキーを片っ端から飲みまくった。 私の予定では、自由に使える時間は新郎新婦が戻ってくるまでの、この20分だけであ った。

しばらくして、ふっと、会場の明かりが落ち、キャプテンが合図を送る。

「大変長らくお待たせいたしました。これより新郎新婦が、装いも新たにご入場でご ざいます。どうぞ皆様拍手でお迎え下さい。」

静かな、ピアノ音楽をバックに、新郎と新婦がトーチを持って入場してくる。

「ご覧の様に、新郎新婦はトーチを手にしております。これより皆様のテーブルにお伺 いして、一つ一つキャンドルに火を灯します。お二人が近くに参りましたら、どうぞお 声をお掛け下さい。」

引率の係りの人が、上手に二人を誘導する。新婦のドレスの裾が引っかかるのではな かと、ハラハラしながら眺めていた私であった。

最後にメインテーブルにあるメモリアルキャンドルに点火してから、二人は再び仲良 く席についた。

この後、歌やエレクトーン演奏、フルートとピアノの演奏など、グレードの高い芸が 披露され、新郎と新婦のハイクオリティな交友関係を目の当たりにした。
「持つべきものは、芸のできる友人」を再認識した私であった。

5分ほど時間が余ったと言うキャプテンの話しで、私も用意しておいた二人の資料を 、少しコミカルに説明した。
「お二人が、お互いの伴侶に何を期待するかとお聞きしたところ」
私は、データシートに目をやって、「この様な回答を頂きました。」
「新郎は『良妻賢母ぶりを発揮して欲しい』とのこと、また新婦は『自分の意志で行動 できる行動力をもち続けて欲しい』また、『自分を磨く努力を怠らないで欲しい』とも おっしゃっていました。」
「おー」と言うような声にならない声が会場に広がる。新婦の方を見ると、恥ずかしげ に下を向いている。

「頼りがいのある新婦で、新郎もきっと幸せ一杯でしょう。」と落ちまでつけてしま った。

これで、後で叱られるだろうな。



Tomoichi Ebata
Sun Feb 4 19:11:56 JST 1996