江端さんのひとりごと 「江端式自律神経訓練法」 2006年6月1日 私は、生まれつきの不眠症でして、大学の時代から特に就職直後は酷 い状態でした。 研究員から主任研究員になってからは、さらに高度な任務や海外出張 の連続、またその他の勉強などが重なり、強いストレスの日々で、体と 心が疲れてくると眠れなくなり、終日体が鉛のように重く感じて、辛い 日が続くことがあります。 私の不眠は、寝付きは良いのですが、不十分な時間で目が覚めてしま う、いわゆる「早朝覚醒症候群」というものに分類されるもののようで す。 これは、ストレスや疲労によって引き起こされる症状で 体内時計が 狂ってしまい、早朝例えば 3時半から 4時半くらいの時間がくると必 ず目は覚めてしまってもう眠れなくなってしまうものです。 しかし、このような状態が連日続いては、疲れが溜り、仕事になりま せんので、私なりに長い時間、色々研究を重ねてきました。 今日は、このような早朝に目が覚めて寝れなくなった時であっても、 「寝ないままでも、かなり疲れが取れる」方法について、ご教授したい と思います。 1. 自律神経訓練法 寝る前、または早朝に目が覚めてしまった時に、団やベットにあおむ けになり、一度背伸びをして息を吐きながら、体の力を抜いて下さい。 軽く目を閉じて「気持ちが落ち着いている」という言葉を心の中でゆっ くり繰り返します。 無理に気持ちを落ち着かせようとしたり、雑念を追い払おうとせず自 然に「気持ちが落ち着いている」という言葉を繰り返します。 ---------------------------------------------------------------- 不思議なもので、とにかく頭の中で言葉を繰り返すだけで、体が緩ん でくるようになります。 私の場合は、 「気持がのーーーんびりしてくる」、 「心がゆったーーりしてくる」、 も加えて、気分が落ち着いてくるまで、頭の中で言葉を繰り返します。 私の場合は、気分が落ちついてくるまで、1時間でも2時間でも、あせ らず、とにかくのんびり繰り返すようにしています。 さらに、私の場合は、頭の中で、誰もいない真っ白な雪原(18歳の時 に、一人で旅をした北海道の雪原など)や、静謐なお寺の中に安置され た仏像(奈良の広隆寺の弥勒菩薩半跏思惟像)をイメージすると、気分が 落ちついてくる感じを獲得しやすいようです。 ---------------------------------------------------------------- 気分が落ち着いてきたら @「右腕が重たい」この言葉を心の中でゆっくりと繰り返します。 この時、右手全体に注意をむけてください。「右手が重たい」を繰り 返しながら、その間時々「気持ちが落ち着いている」をいれましょう。 始めは重たい感じを得られませんが繰り返していくと、だるいような しびれたような感じが得られます。 私の場合、自分の腕がコンクリートになっていくイメージを頭の中に 描くことで、重量感を獲得できるようになります。 イメージの作り方は、人それぞれです。 A「左腕が重たい」と心の中でゆっくり繰り返し左腕全体に注意を向け ましょう。 左腕の重たい感じを得られるようになったら、次は両腕です。同じ要 領で、以下を行って下さい。 B「両腕が重たい」 C「右足が重たい」 D「左足が重たい」 E「両足が重たい」 ここまでが、重量練習です。 ---------------------------------------------------------------- 個人差はあると思いますが、私はこの辺りから、全身痙攣が始まりま す。 まず頭がガタガタと震え出し、足や腕までもが一斉に震えてきます。 時々、体が布団から跳ね上がるほどの痙攣がおこることがあります。 ストレスの高い仕事が続いた後ほど、この痙攣の度合いは酷くなりま す。 状況を知らない人が見たら、さぞ恐しい光景だと思いますが、これこ そが、緊張が開放されつつある状態なのです。 外界からの刺激(ストレッサー)に対して反応する自律神経系を抑え る、副交感神経の働きが顕著になってきた状態になっている証拠です。 副交感神経は、交感神経と相反する作用をもち、生体内のホルモンな どを制御します。副交感神経が優位な状態になると、全身がリラックス し、胃液や唾液の分泌は高まり、血管は拡張し、手や足が温かくなりま す。 しかし、この痙攣は長いこと続かずに、長くても数分で終ってしまい ます。 滅多にないですが、理由もなく(悲しみも怒りもなーーーんにもなく ても)涙がでてくることもあります。 この場合も、自分が泣いているのに任せ、涙が出てこなくなるまで、 泣き続けるようにしています。 ---------------------------------------------------------------- 次は温感練習に入ります。 @「右腕が温かい」 A「左腕が温かい」 B「両腕が温かい」 C「右足が温かい」 D「左足が温かい」 E「両足が温かい」 ここまでマスターすれば心身ともにかなりリラックスできます。 ---------------------------------------------------------------- 私の場合、吹雪の中で凍傷しかけになっている悲惨な状況をイメージ した後、暖かい露天風呂に、手の指先からゆっくり浸していく状況をイ メージします。 今迄、完全に血液が止っていた指の先に血がめぐりだすイメージは、 手の先が痺れる程の温感を獲得できます。 腕までお湯に浸した後は、今度は凍りついた長靴と、凍りついた靴下 を足から引き剥して、ゆっくりと片足づつお湯に浸すイメージをします。 最後に、全身がお湯に解けていってしまうイメージをします。 これでリラックスできますと、軽い催眠状態のまま(つまりボーっと したまま)で、相当な時間が過ぎてしまい、実際に眠れなくても、かな りの疲れが取れてしまいます。 ---------------------------------------------------------------- 大抵の場合、私はここまでしかやりませんが、時々以下の練習も加え ます。 心拍調整練習  「心臓がとても静かに、ゆっくり打っている」を繰り返します。 心臓の脈拍を「1・2・3・・・」と数えて、それを少しゆっくりめ に数えたりしてもいいそうです。 呼吸調整練習  「とても楽に、静かに呼吸している」を繰り返します。 呼吸は自分の意思で調整せず、暗示の効果で自然に呼吸がゆっくりと 静かになるようにします。 腹部温感練習   お腹に意識を向けて、そこの部分が温かくなっている感じをイメー ジします。ただ「お腹が温かい」と頭の中で繰り返すだけでも良いです。 頭寒練習  「額が涼しい」と繰り返す。額が涼しくなっているイメージをします。 これは、ヒエピタを貼った感じをイメージすれば良いでしょう。 温感練習と同時に行っても良いです。 一般に、自律神経訓練法(じりつしんけいくんれんほう)の最後には、 「打ち消し動作」というのが必要ですが、不眠症の対策で使うのであれ ば、この「打ち消し」はスキップして構いません。 目覚まし時計がなるまで、ぼーーっとしたままで構いません。 ただ、昼休みとか仕事中に、この訓練を実施した場合には、催眠状態 のままになってしまい、階段からぶち落ちてしまう可能性もありますの で、一応「打ち消し動作」についても記載しておきます。 両手を上にあげて伸びをしたり、手をグーパー、グーパーと閉じたり 開いたりさせたり、脚の屈伸をすることで、催眠状態から復帰できます。 2. アルコール摂取 自律神経訓練法(じりつしんけいくんれんほう)は、眠れなくても疲れ が取れるので、これが一番良い方法なのですが、催眠状態に入るまでの 手続が面倒です(自己暗示を繰り返すのは結構時間がかかる)。 あと一時間だけを早急に眠ってしまいたいのであれば、最も簡単な方 法は、アルコールの摂取です。 私の場合、早朝に目が覚めてしまったら、そそくさと冷蔵庫に向かい、 ビール(350ml)を一気に飲んでしまいます。 言うまでもありませんが、アルコール摂取ができない人は絶対にやっ てはなりませんし、お酒に弱い人も駄目です。 状況に応じて、ウイスキーの水割り、日本酒の熱燗などもあり得ます が、くれぐれも自分のアルコールに対する耐性を認識してからやって下 さい。 但し、早朝から飲むという行為は、体にも良くありませんし、気分的 にも荒んできますので、程度を考えて行うのが良いでしょう。 ちなみに、これでアルコール中毒にでもなろうものなら、単なる馬鹿 です。 3. 睡眠薬投入 絶対的に進めませんが、早朝から睡眠導入剤や睡眠薬を飲んでしまう という、極めて乱暴な手段もあります。 この睡眠薬を上記のアルコールで流し込むという、最低最悪の手段も ありますが、この方法だけは開示できません。 私は、自らの命をかけて、この実験を行い、自分なりのスタンダード を確立しました(例えば、睡眠薬A + ビール350ml、体調状態、起床まで の残時間 等の複雑なパラメータによる実行)が、この手段が汎用的なも のでないことは言うまでもありません。 命をかける覚悟のない人がやるものではありません。 4. 最後に 不眠症は大変辛い病気ですし、不眠症でない者からは決して理解され ることのない、孤独な病気です。 「神経質」だのと勝手なことを言う奴は、その場で殴っていいです。 少なくとも、私は認めます。 取り敢えず、不眠で苦しい人は、上記の自律神経訓練法を試してみて 下さい。眠れなくても、疲れが取れるというのは、かなり人生を楽にし てくれます。 それでも改善しないのであれば、世の中には精神科という専門の医者 が存在します。 これを使わない手はないと思います。 ----- いずれにしても、不眠で苦しむ人々のほぼ全てが、有能で、真面目で、 責任感があり、正確な仕事を継続し、困難な任務の遂行を果しています。 そして多くの場合、性格が良く、社交的で、美人または美男です。 (私は不眠症です)。 このような不眠で苦しむ人々の苦しい日々の貢献のおかげで、「いー かげんで」「中途半端で」「ろくでもない阿呆」を包含しているこの 社会は、かろうじて成立しているのです。 不眠で苦しむ我々こそが、この社会の中枢であり基盤であるのだとい う確固たる紛れもない事実を、今こそ、胸を張って語ろうではありませ んか。 (本文章は、全文を掲載し内容を一切変更せず著者を明記する限りにお いて、転載して頂いて構いません。)