「全自動育児機」 2002年9月30日 書き人知らず 江端さんのひとりごと 「子供たちを責めないで」(校正前) より抜粋。 > 私は断言しますが、世界で最も辛い仕事は誰がなんと言おうが、絶対にそれ >は「育児」です。 ----- 掃除機、洗濯機、炊飯器... 戦後、これらの機器によって家事は一貫してより楽に、より手を抜いて済ま せる方向を目指して歩んで来たと言えよう。 しかし、家庭内にはそれら文明の光が充分に届いていない分野が残されてい た。 21世紀の現在においても、省力化が行き届いていない未開の分野が存在す るのである。 それが育児分野である。 育児界における進歩は、たかだか紙おむつや粉ミルク程度に留まっており、 その進歩は全自動洗濯機や自動食器洗い乾燥機が達成したレベルと比較して著 しく低いと言わざるを得ない。 かかる現状を鑑みた時、家電メーカーが開発を急ぐべき商品はもはや言うま でもないだろう。 「全自動育児機」 である。 それは未開拓の沃野。 先の見えない景気の低迷とヒット商品の不在に悩むメーカーに差す、一条の 光。 一気に世界のシェアを独占できるまたとないチャンス。 育児界のパラダイムシフト。 人類にとっての新たなステージの幕開け。 シーモンキーの飼育並みのお手軽さ。 たった1つの「育児これっきりボタン」ですくすく育ちます。 後世、人々は言うだろう。 人類の偉大な発明は、火、ネジ、車輪そして全自動育児機だと。 とは言え、この商品にも欠点がない訳ではない。 少子化という現在のトレンドである。 少子化が加速している現在、この商品の将来性にやや難があるのは事実だろ う。 だが心配は無用である。 全自動育児機の開発技術は、もう1つの優れた商品の開発にも応用できるか らである。 その商品とは 「全自動寝たきり老人介護機」 である。 現在、先進国と言われる国々では、どこも国民の高齢化が悩みの種である。 育児分野が先細りなのに対し、老人分野は今後の成長が大いに期待できよう。 介護に要する精神的肉体的負荷を大幅に軽減できるこの商品は、喝采をもっ て世に容れられるであろう。 しかも、オプション装備の「それっきりボタン」で御老体も楽々昇天、若い 世代に重い負担となっている老人医療費問題も解決するとなれば、先進国は先 を争うようにこの商品に飛びつくだろう。 まさに「揺り籠から墓場まで」 これからの電機メーカーの進むべき、新たな指標がここにある。 世間の非難は浴びるにしても。