江端さんのひとりごと           「パソコン購入顛末記」  今世紀最後の大きな買い物と位置づけて、先週の日曜日パソコンを買い に行ってきました。購入の目的は自宅でのPCによるサーバ運用と、PC-UNIX によるPC環境の構築です。  単身赴任先での残業代を全部突っ込むことにしました。  勿論、購入に際しては、事前調査を完璧にしました。  私の選んだお店は、Windows一色の秋葉原界隈で唯一PC-UNIXを全面に押 し、パソコンを自分のところで組み立てて販売・提供しています。  ノーブランドということもあり、PentiumPro180MHz 64Mmemory 2GSCSIHDD 17inch Displayその他色々で、20万ちょっとはかなり安く感じます。    -----  この店は、いわゆるアンチWindows路線の信念を持つ店員が集まっている ようで、私がスペックやPC-UNIXの質問をすると、店長が飛んでくるし、社 長が大声で声をかけてくるし、まあ、実に元気のよいPCショップです。  「オウム(*1)の野郎がよ、またPC作り出して売り始めやがったんだ。」  と、カウンターの奥でたばこを吸いながら大声でしゃべっている社長。  「お客さん!オウムのところで買わないで、うちで買ってくれよ!!」と いいながら豪快に笑うのにちょっと押され気味になりながら、私は店長に紙 に書き留めてきた来た20項目の質問を一つ一つ質問していました。  「お客さん、あなたかなり『通』ですね。」と覗き込むように私の顔を見 る見る店長から目を離して、私は思わず(何をおっしゃりますか、お代官 様。私はただのしがないユーザでさあ。)と言う顔をして、へらへら笑って いました。  ソフトウェアの技術者と分かってしまうと、ろくな目に会わないのは身に 染みていました。『技術者なら自分で解決せんか!』とろくろく対応しても らえないことも多く、また親戚縁者からの質問の嵐が吹き荒れます。  「どのパソコンを買えばいいんだ。」くらいの質問ならいいんですが、極 めつけの質問はこれ。  「何で動かないんだ!」  知ったことか! マイクロソフトに聞け、マイクロソフトに!!   -----  土曜日、日曜日と日参して、日曜日の夕方ようやく購入を決意しまし、私 が、銀行振込用紙に記入していると、早速店長にばれてしまいました。  「お客さん、日立の人ですか!」    その声を聞きつけた社長が、割り込んできます。 社長:「日立のどこ?」 江端:「システム開発研究所、というところです。」 社長:「ああ、(シ研)ね。」    『シケン』などと言うローカルな呼び方を知っていると言うことは、この 人も妙な方向の人だな・・と、私はとてもいやーな予感がしてきました。 社長:「(シ研)は、確かBeOSをやろうとしていたよな?うちもな、インテ ル版のBeが出たら販売するから、買ってくれよな。」  トップシークレットではないとは言え、(シ研)がBeOSなどというマイ ナーなOSをキャッチアップしていることを、なぜ、この人は知っているの か?  そして、「今、所長はKだったよな。」と、所長に敬称を付けずに呼び捨 てにできる、この人物は何者か? 社長:「俺な、前、日立にいたんだ。」  あちゃ〜・・・やっぱりそうかぁ・・・。店間違えたなあ。  もし、変な質問をしにきたら、『お前ちゃんと勉強しとるんか!』と怒鳴 られること間違いなさそうです。 社長:「あの、2050(*2)なあ、実は俺が作ったんだ。」  ・・・しまった。このショップ選びは完全に失敗だった。  -----  「君な! これからいっしょに楽しいことやっていこうな!!」と言う社 長の声を後ろに聞きつつ、引きつった笑顔を何とか浮かべてながらショップ を出て、うなだれながら大甕に戻るために、上野駅に向かう江端さんでし た。    (*1) オウム真理教。地下鉄サリン事件などのテロ事件を起こし、教祖が逮    捕された。教団資金として「マハポージャ」と言うパソコンショップ    を運営していた。 (*2) 日立のワークステーションコンピュータで、JRみどりの窓口の端末に    も使われている。内々の話であるが、嫁さんが独身時代に勤めていた 銀行では、この2050のシステムにリプレースして、逆にシステム のレスポンスが悪くしたそうである。   (注)UNIXは商標ですが、PC-UNIXは商標でないと位置づけております。     間違っていたら、個人メールにてご指摘ください。 (本文章は、全文を掲載し、内容を一切変更せず、著者を明記する限りにおい て、自由に転載していただいて構いません。)