海外特許に立ち向かう方法  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ver 0.1 2000/12/28 ver 0.0 2000/06/09 江端智一 E-mail:See http://www.kobore.net/mailAddress.gif http://www.kobore.net/  言うまでもありませんが、本文章は 無保証です。この文章の影響によりどの ような事が起ころうとも当方は一切の責任を持ちません。 0.変更履歴  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ver 0.1 2000/12/28  第2版 米国特許庁拒絶通知書に対する第2回目の抗弁完了後 ver 0.0 2000/06/09  初版 とりあえず書き始めてみる 1.目的  ̄ ̄ ̄ 国内や海外に関わりなく、特許出願を行なう時には、その前に公知例調査を 丹念に行わなければなりません。 理由は明解。 既に同じ内容の特許が出ていたら、その特許は、当然「公知」として扱われ、 せっかく書いた特許明細書が、紙屑同然となるからです。 また、特許明細書を出願したとしても、大抵の場合、審査請求の段階で、特 許審査官から「すでに、同じ内容の特許が出とるわい。これを読め!」と、提 出した特許より以前に提出された特許を叩きつけられます(拒絶)。 このまま黙っていると、あなたが折角書いた特許は、ただの紙屑となってし まいます。 ですから、特許審査官に対して「全然内容が違うわい。こいつの特許は、〜〜 だけど、私の特許は〜〜だろうが!」と言う内容を、レポートにして提出しな ければなりません(異議申立)。 しかし、これが凄く大変。 御存知の通り、特許と言うのは、自分の発明の事項を正確に記述しなければ なりません。そこに、あいまいな表現などがあれば、その部分のあなたの発明 を、他の人が「別の発明」として持ち去ってしまうかもしれません。 そして、正確に記述された発明の内容と言うのは、読み手にとっては、まっ たく訳の分からない呪文の様な記述に見えるのです。 これが英語だったらどうなるか、想像できますか? 2.先ずは「敵」を知る  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 金と暇があれば、大抵のことはできるものですが、特許に関しては、ほぼ例 外なく、予算も時間もない、と言うケースが多いものです。 #「今期のノルマで出せ!」とか「明日までに、拒絶審査の抗弁コメントを提 # 出しろ!」とか。 という訳で、予算も時間もない状況で公知例検索を行なうには、公開されて いるWWWサイトを使うしかありません。 2.1 公知例を調べる ○IBM Patent Server (1971- ) http://www.patents.ibm.com/ これを使ってみた時は、涙が出そうな程嬉しかったです。 キーワードで、1971以降のパテントが全部検索できます。 しかも無料。 $3.00で、PDFやTIFF形式で、パテントのドキュメントを入手することもでき ます。 ちなみに日本の場合は、 ○特許庁 (1993- ) http://www.jpo-miti.go.jp/indexj.htm から、技術用語や文献番号で検索できます。 2.2 全文を読み下す 数十枚に及ぶ英文パテントを軽く読み下せる人は、ここはパスしていいです。 IBM Patent Serverでも、パテント全文が手に入るのですが、テキストが取 り出せないと言う問題があります。何故、テキストなどが必要かと言うと、英 文を翻訳ソフトに喰わせて、日本文にしたいからです。 時間あるいは才能がある人ならともかく、「明日の朝までコメント提出」と 時間を切られてしまったら、例え翻訳ソフトが滅茶苦茶な翻訳を吐き出したと しても、日本文があるのとないのとでは、全然理解の速さが違います。 米国パテントのテキストは、ここで手に入ります。 ○US Patent and Trademark Office (1976- ) http://www.uspto.gov/patft/index.html 例えば、"Patent Number Search"を選び、Patent Numberを入力すれば、全 文のテキストが出てきます。 これを、翻訳ソフトに喰わせます。 (参考 http://www.kobore.net/honyaku.txt) 特許データベースへのリンクは、 http://patent.site.ne.jp/links/psearch.htm が特に詳しいです。 3. 特許(明細書)を執筆する  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 日立製作所は、知的所有権本部という特許を専門に扱う事業部があります。 けど、特許を書いてくれる訳ではありません。 やっぱり執筆するのは自分です。まあ、そのための教育もさんざん受けてい るし、これは仕方ないと思います。 他の会社では、アイデアを口述するとそれを特許として纏めてくれる、至れ り尽くせりの会社のあるそうですが、これも本当に良いことなのか、ちょっと 私には判断を着けかねます。 ----- 企業の研究所の研究員にとって、特許執筆はもっとも重要な任務の一つです。 特許の執筆は一人の研究員が行いますが、(シ研)では、研究に携わった全て の人の名前が、共同執筆者として連ねられるのが常です。特許の執筆を行った 人を「筆頭発明者」とし、以下発明の貢献度が高い順に名前を記載し、最終的 にその発明の貢献度を、筆頭発明者が数値(合計100になる)で決めます(少 なくとも、日立製作所では)。 これは、特許収入が得られた場合、その報償金をその数値で分配するため にあるのですが・・・。 世の中の多くの人が持つ「特許」に関する思い込みの一つに、『特許を書 けば大金持ちになる』と言うものがあります。 質の悪い幻想です。 さらに正確に言うと、この特許に関する幻想は、2つの誤解から構成されて います。 (1)特許を書けるのは、素晴らしいアイデアを持つ人間のみである。 年に2度、期末年末の激務の中、ノルマの為に書かされる特許が、素晴らし い物になるわけがないじゃないか。 第一、特許なんぞは、誰でも書いて良いのです。 で、我々がどんな特許を書くかと言うと、例えば『従来の手法を逆の手順 でやってみた』『ある方式と、別の方式を会わせて、新しい方式をやってみ た』と言う、全くもってしょうもない、----フロンティアスピリッツの破片 もない----特許を、大量生産することになるわけです。 (2)特許を書けば、収入が得られる。 多くの人が、『特許を書いても、一円も金にならない』と言うことを全然知 りません。 特許とは、『その人が発明したアイデアを独占する権利を、時限付き(現在 の特許法では20年)で与える』と言うものに過ぎないのです。 これは、『自分が取得した特許を、他の人が使っている場合、それを止めさ せる権利を持つ』と言うことだけなのです。 要するに、「使うな!」と命令できるだけのことに過ぎません。 では、なぜ特許収入なる利益が得られるかと言うと、「でもね、こんだけお 金をくれるなら、見逃してやらんでもないがねぇ・・・」と言う、やり方を使 って良いことになっているからです。 特許収入とは、ほとんど「いちゃもん」、あるいは、特許法に乗っとった合 法的な恐喝の成果です。  ----- 特許でお金を得たいと思えば、まず、自分のアイデアを誰かが使ってくれ なければなりません。 また、独力で、自分のアイデアを使っている人を見つけ出さねばならない。 だから、どうしようもないアイデアなんぞ、誰も使いはしないだろうから 一円にもなりません。 また、アイデアを使われていたとしても、それを発見できないような所で使 われていたら、手も足も出ません(このような特許を『顕現性がない』といい ます)。  だからこそ、絶対に逃げられない様なアイデア、例えば、 「カップヌードルの麺の生成法」 とか、 「ゴキブリを捕獲する箱」 などのような、 誰が見ても、『私の特許のアイデアを使っている』(これを、特許侵害とい います)と主張できる特許であれば、億の単位の金を得ることができるように なるのです。 日立製作所のシステム開発研究所では、「簡単に野菜の皮が剥ける皮剥器」 とか、「寝ながら英語の勉強ができる枕」「宇宙人からのメッセージの聞こえ るヘッドホン」などの特許は書かせてくれません。 やってみたことありませんが、多分駄目だと思います。 (以下、続く)