江端さんのひとりごと 日帰りスキー in コロラド 第6弾 「ラブランドベイスン」 フォートコリンズから一番近いスキー場は、前にも述べた通り、ボルダーか ら30分のところにあるエルドラスキー場ですが、I-70沿いとなると、アイゼン ハワートンネルの直前にある、ラブランドベイスンスキー場です。 ラブランドは、文字通り、"LoveLand"と書き、フォートコリンズから南に10 マイル程南下した所にある街の名前にもなっております。 最初、日本の高速道路のインターチェンジに乱立する、ラブホテル群落をイ メージしていたのですが、ことコロラド州に関する限り、ラブホテルに相当す る建築物はありません。 はっきり言って、ここは、気色の悪いほど健全なところです。 ラブホテルは勿論、成人雑誌ビデオの類を入手するルートは、(闇ルートは あるかもしれないけど)ついに見つからず、成人映画なんざ勿論、春を売買す る店なんぞは、影も形も見えません。 (まあ、妻子持ちの身上で、そういうものを探す動機もないのですが) ただし、日本のティーン達が入手に苦労するコンドームに関しては、空港、 コンビニエンスストア、ガソリンスタンド、どこでも手に入り、HIVの問題を 抱える大国の苦悩を垣間見る思いです。 リカーショップ(酒屋)も、どちらかと言えば入りにくい雰囲気(IDの提示は 当然)で、公道や公園でビールを飲んでいたら逮捕され(本当)、私が唯一、野 外で飲んだビールは、ヒューレットパッカード社の広大な構内にあるバーベ キュースタンド付きの公園の中です。 そして、建築物には喫煙所の概念がなく、喫煙は建物の外がこちらのデフォ ルトルールです。 一方、拳銃やライフルが、スーパーマーケットで普通に売っているし、その コーナーの売り子が、どこかに行ってしまっていない時もあり、そういう時な ら、拳銃やライフルの万引は十分可能です。 あまり知られていませんが、米国は基本的にはキリスト教の国で、キリスト 教の禁忌が、(飲酒、喫煙、SEX等に対して)ライフスタイルを厳密に支配して いる国であり、その一方、銃の所持に対して寛容なのは、建国当時、米国には 軍隊がなく、自国の自衛を一般市民が行なわなければならなかったという、米 国の歴史的経緯によるもの、と、家庭教師のスティーブが説明してくれました。 (当初、『市民による銃の所有は、市民が圧政下にある時に、市民が市民によ る政府の打倒を可能とする権利を保持するため』とスティーブに語ったところ、 "yes and no"と言われた後に、上記のように訂正された) ----- 日本人の持つアメリカ合州国のイメージは、ニューヨークであり、ワシント ンであり、フロリダ、ロサンゼルス、サンフランシスコ、そしてサンノゼです が、それは、アメリカ合州国の、ごく一部の地域です(ハワイなんぞは問題外)。 で、この辺で阿呆たれが引き起す凶悪犯罪や、各種のインモラルな習慣(お よびそれを誇張して描写する映画)が、日本人の持つ米国のイメージとなって 定着する、と。 しかし、州都とこのような大都市を除いては、犯罪発生率は低く、人々はフ レンドリー、物価、特に生活インフラ(ガス、水道、電気、ガソリン、アパー ト代)の安さには目を剥くものがあります。 飯は不味い(口に合わない、ではなく)のですが。 フォートコリンズに関しては、(最近はぶっそうな事件もあるのですが)米国 に赴任してアパートを決めた時、そのちゃちな鍵に驚いたもんです。 自分でもう一つ鍵を付けましたが、今になって思えばあまり必要なかったか もしれません。 ----- 我々のように、中部山岳時間帯に住みつく日本人は、上記のような場所、す なわち、日本からの直通便が到着し、日本語の看板が表示され、日本食の食材 が容易に入手できる地域を、米国とは認定しません。 『あそこは、日本』 我々コロラド在住日本人が認定する、正しい米国の姿とは、 - 週末に、100km先の州都に米を買い出しに行く - 冷凍パックマグロに、感嘆の声を上げる - 少しでも旨い寿司屋を見つける為に、州内を奔走する (海に面していない州の海産物事情は、悲劇と言ってもよい)。 - その街の日本人コミュニティの人間は100人に満たない - どこに行っても日本語は通じず、日本語表記は全く見られない というものです。 水のない砂漠を歩いてきたように、至るところでコミュニケーションに苦し んできたコロラド在住日本人の一人としては、このような日本言語と、日本文 化と日本食材に溢れる米国内日本人居留区に住んでいる方々を、簡単に同胞と 思えない屈折した思いがあります。 閑話休題。 ----- ラブランドスキー場は、渋滞が深刻になるアイゼンハワートンネルの直前で、 高速道路を降りたら、即スキー場、という立地条件の良さで、2回ほど行って おります。 子供と初心者専用の Loveland Valleyと、Loveland Basinの2つに分かれて いて、その2つのスキー場の入口がリフトで繋がっています(シャトルでの移動 も可)。 アイゼンハワートンネルの直前のすりばち状の広大(というか、遠大)な斜面 全体がスキースロープになっており、山の陰に隠れることなく、一目でスキー 場全体を見わたすことができる、この辺では珍しいスキー場です。 # 大抵のスキー場は、ゲレンデの向こう側の斜面に、もう一つゲレンデが隠 # れており(さらに、その後にもあることがある)、そのゲレンデは、登った # は良いが降りることができないエキスパートコースと決まっている ----- このラブランドスキー場は、私の個人的な理由で、良い印象を持っているの です。 それは、モーグル(コブ)斜面を、滑落、転倒なく降りてくることのできた、 最初のスキー場だったからです。 まだ美しい滑りには到底及びませんが、結構余裕を持って、少なくとも一回 も転ばずに、下り降りることができました。 とは言っても、技量が上手くなった訳ではなく、クリスマスプレゼントに、 嫁さんから、スキー板を買って貰ったんです。 SALOMONの"MINIMAX"と言う、長さ99.9cmのミニスキー。 ビンディングがなく、スキー靴を板に直結するもので、注意書きには、「身 長120cm以下の者の使用禁止」「圧雪された中級以上の斜面に行くな」、そし て、とどめは「転ぼうが、こけようが、板は絶対に外れない」と書かれてあり ました。 要するに、「ドジ踏んだら、骨が折れる」 ----- 最初の一本を滑った時は、大後悔でした。 板がパタパタ動いて全く安定しない、横に流れるからコースが決まらない、 板が短いから思ったように停まらない。 しかし、発想を切り換えて「これは、スケートだ」と思った瞬間から、滑り が劇的に変わりました。 両足エッジで方向を換えるときの軽いフットワークと簡単な方向転換は、快 適を通り越して、快楽。 『頼むから、これを履いてエキスパート(コース)には行かないで』と嫁さん に頼まれていたのですが、思い切って突込んでみると、板が短いので、コブの 谷にスキー板がスッポリはいって、これまでどんなに練習してもできなかった コブ斜面の滑走が、それは、もう、涙が出そうなくらい簡単にできるようにな りました。 コロラドのゲレンデで、ミニスキーを履いて高らかに哄笑している日本人が いたら、それは間違いなく私です。 ----- コロラドでは、3歳の子供が中級斜面を、ボーゲンのまま、凄まじいスピー ドで降りていき、5歳の子供の一群が、エキスパートで滑落している私の横を ひょいひょいと降りて行きます。 アラパホベイスンのあのパリバチーニボウル(先週、また一人死亡)を、3歳 くらいの男の子と、7歳位の女の子と、お父さんとお母さんが、一列になって 滑り降りていく『微笑ましい』光景をリフトの上から眺めた時、 ----- 冬季 オリンピックの日本のメダルが2個と言うのは ----- 十分に立派な成績じゃな いかと思わずにはいられません。 このような子供達がいる限り、冬季オリンピックで、米国に勝てる国はあり ません。 日本は他の分野で頑張りましょう。 特に、日本のスノーボーダの下手さは、私が保証します。 スノーボードでいきがっている(特に若い方)は、一度コロラドにいらして下 さい。 3歳の幼児と、70歳のお爺さんが、エキスパートコースをスノーボードで華 麗に降りてくる姿を見て、己れの未熟さを悟れたら、旅費の元は十分に取れる と思います。 ----- 最後に、今一つスキー技術の向上が図れないと悩んでいらっしゃる方、一度 ミニスキーを試されることをお勧めします。 『上手くなったような気がする』と言う効果の点においては、この私が保証 します。 (本文章は、全文を掲載し内容を一切変更せず著者を明記する限りにおいて、 転載して頂いて構いません。)