江端さんのひとりごと 「ハイソサエティな江端家」 先日、先輩のNさんと私、嫁さん、娘の麻生(まお 生後5ヵ月)の4人で、湯 河原梅林に出かけて来ました。 その帰り道の、車の中での会話です。 Nさん :「江端家は、この麻生様の教育方針をどのように考えているのだ?」 江端 :「教育方針ねえ・・・、あまり具体的に何も考えていませんね。」 Nさん :「何か習わせるつもりはないのか。ピアノとかバレエとか。」 江端 :「ピアノねえ、あの居住空間のどこにピアノを置けば良いのか。」 嫁さん:「バレエはダメだよ。この娘、体硬いから。」 嫁さんも私も、小さい頃にピアノを習わされた口であり、今でも一応楽譜を 読むことはできるのですが、我が娘にピアノやバレエと言う才能が生まれるに は、遺伝子レベルで突然変異が起きてくれたことを期待するしか無いような気 がします。 江端 :「学習塾とか行くようになるんかねえ。」 Nさん :「そりゃ、お前が行かせりゃ行くだろうよ。」 江端 :「英語塾とかなら行かせてもいいけどな。」 英語で始終苦しんでいる私の能力は、可哀想ですが、確実に娘に遺伝するだ ろうと思います。 嫁さん:「娘に英語の発音の間違いを指摘されたら、頭に来るだろうね。」 江端 :「クラスメイトに、いちいち英語の単語を教えるような、いけすかな いガキになるような気がする。」 何と言っても、私の娘ですから。 ----- 箱根ターンパイクで、夕焼けの富士山を見るため、海岸線から伊豆半島の中 陸部に向かって、奥湯河原の温泉街の終点辺りを通過しようとしていた時です。 車は、いかにも老舗、一見さんお断りと言う様な、格調の高い温泉宿の前を 通過しました。 江端 :「日立に勤めている限り、こういう温泉宿に泊まることはできないんだ ろうなあ。」 と、温泉宿の玄関をちらりと見ながら、私が一人ごとの様につぶやきました。 すると、Nさんは意外そうな声で応えました。 Nさん :「そんなこともないだろう。サラリーマンだって、常連客になれば行 けるんじゃないか?」 江端 :「一泊10万円もする宿に?」 Nさん :「・・・10万円は、ちょっと辛いな。」 江端 :「やっぱりさ、こういう温泉宿に泊まるにはそれなりのレベルが必要 だと思うんだ。 例えば、温泉宿の玄関の前に車をとめるだろう。そうすると、旅 館の女将が出て来るわけよ、番頭と見習い達を従えて。 女将 :『まあ、これはこれは江端様。お懐かしゅうございます。』 江端 :『よう、女将。元気そうじゃないか。』 女将 :『奥様もお変わりなく・・・』 嫁さん:『お久しぶりね、女将さん。』 女将 :『あら、江端様。今日は、麻生様は・・・』 江端 :『ああ、あいつなら何かピアノをやりたいとかで、 アメリカに・・・ええっと、あれはどこだったかな』 嫁さん:『ニューヨークのジュリアード音楽院ですわ。』 女将 :『それは、また遠いところへ御留学になられたのですね。 江端様も御心配でしょう?』 江端 :『まあ、ものになるかどうかは、分からんがね。本人がや りたいと言っているから、好きにやらせているよ。 まあ、私としては早く嫁に言って、安心させて欲しいも のだがね。わっはっは。』 ってな感じで。」 嫁さん:「うわー・・・、ドラマに出て来る『上流階級』・・、と言うか、 『成金』そのもの。」 Nさん :「我々、庶民が想像できる限界図だな。」 江端 :「多分、ハイソサエティと言うのは、多分、こういうのと全然方向が 違うんでしょうね。」 所詮、テレビでやるドラマなんぞは、『才能はあるが、貧乏人であるが故に チャンスを与えられない悲劇のヒロイン v.s. ヒロインをこれでもかと苛める、 父親が成金か政治家であるクラスメイト』程度の、貧困な状況設定でしか展開 されません。 それは、何故かと言うと、ドラマの視聴者は勿論、ドラマの脚本・製作・演 出・そして出演者のほとんど全てが、いわゆるアッパーミドルと言われる庶民 であるからです。 そして、その庶民が庶民のためのドラマを作ると、実際のハイソサエティの 世界を想像で埋めるしかないような、稚拙な演出のドラマしかできないからで す。 Nさん :「じゃあ、『バレエ』ならば、ロシアのボリショイなんとか学校と なる訳だな。」 江端 :「そうだねぇ・・・、『モスクワの、なんとかビッチ先生に師事し て』とか、なるんだろうね。」 Nさん :「サノバビッチ(*1)先生か!?」 江端 :「サノバビッチ先生に、一体何を教えて貰うと言うんだ!!」 大人たちの、無責任な発言をよそに、麻生は、天使のような寝顔のまま、クー ハンの中で眠り続けていました。 (*1) sons of bitches 野郎,やつ, ちくしょう!,くそ! (本文章は、全文を掲載し内容を一切変更せず著者を明記する限りにおい て、転載して頂いて構いません。)