江端さんのひとりごと              「ひやぁ!!」   仕事帰りの嫁さんが、東京駅で電車待ちをしていたときのことです。  日本で最大の鉄道プラットフォーム、東京駅に『あ、あ〜〜、あ〜〜』と、 駅アナウンスのマイクチェックの声が聞こえてきました。 『あ〜・・・、あ・・えくすきゅうず・・えくすきゅうずみい。』 嫁さんは勿論東京駅にいる全ての人が、この尋常ならぬ言葉に顔を上げました。 『あ〜、すみたー・・すみす、みすたー・・すみす・・』  あれは殆ど日本語だった、と嫁さんは言います。 『みすたー、・・わたなべ いず・・・うえいてぃんぐ ゆう。』  嫁さんは最初唖然とし、やがてうつむいてくすくすと笑い出しました。  恐らく、新宿駅にいる全ての人が、忙しく時間に追われている自分のことを 忘れて、頬を緩ませました。  -----  食卓を囲んで、夕食を食べながらの夫婦の会話 江端 :「でもねぇ、曲がりになりにも英語をしゃべってアナウンスしてい      る訳だよね。立派なもんだと思うよ。」 嫁さん:「ちゃんと正しい英語だしね。発音はともかく」  嫁さんの話は続きます。  ----- 『みすたー・・わたなべ うぇいっと あっと いーすと げいとぉ・・』 『ぷりーず かむ・・、かむ・・』   ここで、片言ながら続いていた駅アナウンスは、詰まったように黙ってしま いました。  新宿駅にいる全ての人が、心配そうに固唾をのんで駅アナウンスに聞き入っ ていました。多くの人が(がんばれ!)と心の中で声援していたと私は信じて います。  そして、数秒の間をおいて、ようやく思いついたように、最後の言葉が発せ られたのでありました。  『かむ・・かむ・・・、ひやぁ!!(*1)』 (*1) here(『ここ』の意) (本文章は、全文を掲載し内容を一切変更せず著者を明記する限りにおいて、 転載して頂いて構いません。)