江端さんのひとりごと 「神の降りる日」  先週も全休日出社で、引き続き今週も、会社で論文執筆をやっています。  エッセイ書かせれば、世界の5本の指に入ると言われるこの私も、さすがに 英文10枚のフルペーパーは範囲外。 しかも書いている私が今一つ理解できていない論文だから、そこに「英語」 と言うフィルターが入れば、トイレの紙としてすら使えない紙資源が世界中に ばら撒かれる事になるのは、火を見るより明らかです。  ああ、本当にもったいない。  ご存知の通り、AMDS(後天性非母国語コミュニケーション能力欠損症候群) (*1)と言う、遺伝子疾患を持つ私が、どうして英語の論文などを書けるのか、 不思議がる方がいらっしゃるのは当然です。  私としては、本当は、テストで良い点数を取れたのに、『全然、駄目だぁ! 終わったぁ!!』と叫んでいる不愉快な野郎のごとく、「江端は、英語ができ るくせに、英語ができないふりをして、不愉快な奴だよ」と思われるのは、極 めて不本意です。 (*1)江端さんのひとりごと「IETF惨敗記2(白夜のノルウェー編)」  エッセイにしても、英語の論文にしてもそうですが、あれは私が書いている のではありません。  実は、「神」が書いているのです。  いや、本当に。  嘘じゃないんです。  降りてくるんですよ、神が。  状況としては、 (1)極限まで疲労し尽くし、 (2)論理を展開する知力が完全に枯渇し、 (3)上司に理不尽な命令を受けた  などの諸条件がうまく揃った、主に深夜、誰もいなくなったオフィスの私に 神が降りてきます。  するとですね、200メートル先に視点を合せるような表情で、勿論瞬きな どもせず、背中からは黒いどんよりしたオーラが体にまとわりついて、もの凄 い勢いでキーボードを叩きはじめるんです。  仮に、もしその時、誰かが「江端さん」と声をかけても、振り向くのは目を 吊り上げて薄笑いをする「神」です。 同僚は、皆、戸惑った笑いのまま、後ずさりながら去っていきます。  こういう状態になった私は、10倍以上のスピードで筆が進み、いつのまに か執筆が終わっていることがあります。  ただ、いかんせん、この「神」の英語も私と同じように、目茶苦茶であった りするのですが、取りあえず終わらせる事だけはやってくれるのです。  -----  なのに、どうして今日は降りてこないの、神様。 今日降りてきてくれないと、INET2000(*2)の締め切りに間にあわないんです けど。 (*2)http://www.kobore.net/INET2000/index.htm (本文章は、全文を掲載し内容を一切変更せず著者を明記する限りにおいて、 転載して頂いて構いません。本文章を商用目的に利用してはなりません。)