H社S研究所 新人養成 裏マニュアル 「議事録」作成編 Ver0.1 2002/05/23 Ver0.0 2002/05/21 江端智一 0. 免責 本文章の内容は無保証である。 本文章を参考にして作成された、如何なる生成物に関しても責任を持たない。 本文章により、どのような事が起ころうとも当方は一切の責任を持たない。 1. 議事録作成の目的と心得 議事録とは、言うまでもなく会議の記録ですが、単に記録を取れば良いとい うものでもありません。 議事録作成には3つの大きな目的があります。 (1)書き手が可能な限り手を抜いて、しかしながら、会議の内容を可 能な限り正確に伝達すること。 (2)読み手に可能な限り、 - 簡単に - 読み直しなく - 気分良く - 最短時間で、 会議の内容を理解させる、あるいは理解したような気分にさせる こと。 (3)発言者に「私はそんなことは言っていない」とは、死んでも言わ せないこと。すなわち、言質を取ること。 議事録の作成が完了したら、(基本的には上司の承認後に)、可能な限り早急 に(できればその日の内に)作成し、関係者にメール送信すること。 理由は上記(3)の内容に同じである。 2. 江端方式による議事録の作り方 議事録の作成方法とその特徴を以下に記載します。 1. 日時: 開催が2個所以上に渡るばあいは、全部を記載 終了時間も忘れずに記載 2. 場所: 場所、階、会議室の名前まで 3. 出席者: 所属と名前。 H社的にはカタカナは略称形式で。 4. 目的: その会議の背景(なぜこの会議がもたれたか)を加え、数行行程度 5. 議事概要: 3行以上10行以下の議事のサマリー 6. 議事内容: 主に「報告書」と異なる部分で言えば、 主たる発言者を明記 議事の内容をテーマごとに時系列方向に記述 その経緯も発言名つきで明記し、最後に決定事項を記載 # ただ、この「時系列」を真面目に記述すると、読み手が # 訳が分からなくなることがあるので、ある程度纏めて # 記述しても良い。 会議の雰囲気(険悪、良好等)も匂わせてもよい(「感想」に全部付っ こむと言う手もある。 総じて、議事とは全員の発言を時系列で全部記述するものであるが、 そんなことをしたら、書き手、読み手ともに死んでしまうので、 両者のメリットを最大にするように、纏めるもの、と考えてよい。 最後にテーマごとに議事結果を加える。 これが非常に重要であり、この「結果」が記載されていないものは、 議事録とは言えないので、要注意のこと。 7. 今後の予定: 各人の宿題 誰かが「〜をやる」と決めたことは、全部書く。 後で逃げれないようにするため。 次の会議の時にこの議事録を見せて苛める。 次回開催予定 可能な限り詳細に(可能なら、場所、時間を明記) 8. 感想: これは、月報の書き方に準じる。 すなわち、 - 自分の感想を正直に書きつつ、 - 自分の誘導したい方向へ、たくみに誘導しても良い - 明確な意図がないかぎり、『前向きな自分の意思』を表明 する # 明確に会議の内容を否定すると言う書きかたもある。 ## 新人にはお勧めしないが。 3. 議事録作成におけるレトリック  議事録作成にあたり、必要となるレトリックを以下に示します。 (1)できるだけ短い文節でブロック的にに文章を書く 文章は2〜3行で一区切りになるように。接続詞をあまり使わず、でき るだけ断定的に書くことが望まれます(読者に推測の余地を与えない)。 (2)並列的に記載する場合は、箇条書きを使う 例としては、「・・・は、以下の3つである。(1)・・・。(2)・・・。 (3)・・・。」と言うような記述方法を薦めます。 個人的には、月報の全部を箇条書にできれば、本当に美しくて読みや すものになると思いますし、文章の下手さを効率よく隠せると言う点 でも、強く推奨します。 (3)文節を構造的に書くこと 以下に例を示します。 【例1】 (何のために)  複数の組織間でポリシー情報を交換するために、 (何時)     (省略) (誰が)     IPAプロジェクトで実装を行なっているポリシーサー バに、 (何を)     ポリシー情報の配送を可能とする拡張BGP4を (どうした)   実装することになった 【例2】 (何のために)  これらのBGP4の基本機能を取得するため (何時)     (省略) (誰が)     (省略) (何を)     これらにに関する文献を (どうした)   調査した 4. 議事録サンプル 下記のサンプルは、「2. 江端方式による議事録の作り方」をを完全に踏襲 している訳ではありません。 実際に議事録を執筆する時には、その状況に応じた記述をしても一向に構い ません。 大切なのは「1. 議事録作成の目的と心得」の意図するところを、包含する ことなのです。 CIIP 第1回電話会議議事録 和気/HICAM 09/29/2000 1. 日時 2000年9月29日(金)10時45分〜11時45分(日本) 2000年9月28日(木)19時45分〜20時45分(アメリカ・コロラド・山地標準時) 2. 場所 (浜)/(S研)4階部長室(日本) ヒューレットパッカード社第5棟3階5UK6会議室(アメリカ) 3. 出席者 (コミス)、(平川)、(波賀) 以上c01u (江端)、和気       以上c01u→(HICAM)/(SSD)出向中 4. 目的 9月23日に発足したプロジェクト(C01u Inter-domai and Internet draft Project)参加者の意識合わせを目的とする。 5. 議事目次  A. プロジェクトの方針決定   A-1. 内容   A-2. 主筆者   A-3. GMD   A-4. 活動拠点   A-5. HP   A-6. 発表  B. プロジェクトのスケジュール確認 6. 議事内容  A. プロジェクトの方針決定 A-1. ドラフト提出のターゲット (江端)「49th IETFでいいか?」 (平川)「個人的にはもっと長期的な活動を想定しているが。」 (江端)「49thをターゲットにするなら時間的にできることは限られる。」 (江端)「49thでマイナーバージョンを提出し、その後MPLS-VPNを視野に     入れるという手もある。」 結論:49th IETFをターゲットとする。 1-2. 49th IETF参加 (江端)「49th IETFには参加するのか?」 (平川)「(平川)、(波賀)の出張申請は却下された。」 (平川)「開催時期が予算期末なので、予算の余りで、あるいは発表するなら     (波賀)一人なら出張できるかもしれない。」 (江端)「IETFで発表すると、予期せぬ外国企業から共同研究の誘いが     来るが、49th IETFまでに一人で外国企業と契約をするくらい     英語力を向上させることは可能か?」 (波賀)「依頼研で英会話に割く時間なし。」 (江端)「発表するのであれば、(三家)だけでなく(江端)も現地入りして     サポートする。」 結論:(三家)、(江端)は参加。(平川)、(波賀)は未定。   1-1. 内容 (江端)「49th IETF提出を目指すなら、draft-ebata-interdomain...を     ベースとするしかない。」 (江端)「draft-ebata-interdomain...は直すべき点を多く含んでいる。 (コミス)「問題の定式化、明確な分類が必要。」 (コミス)「抽象的な内容から初めて、徐々に具体化していく方法もあるが。」 (江端)「今回は49th IETF提出のために、問題を局所化する方向にする。」 (江端)「QoSに特化した組織間ポリシースキーマ(交換、シグナリング)を     中心にMPLS-VPNをにらんだものとする。」 (江端)「VPN、SLS (Service Level Specification)の要素を盛り込むか     否かは次週以降の調査を踏まえて決定する。」 結論:draft-ebata-interdomain...を踏まえる。    QoSをベースに組織間ポリシースキーマから始める。    詳細は次週以降の調査に応じて検討する。   1-2. 主筆者 (江端)「(コミス)、(平川)、(波賀)の三名だが、(波賀)が手を挙げている。」 結論:(波賀)に決定。   1-4. 活動拠点 (江端)「AAAARCH以外に活動拠点はあるのか?」 (平川)「MPLS-VPN BOFが発足したが、発足したばかり。」 (平川)「(平川)は本当に標準化する気があるのか懐疑的。」 (平川)「(コミス)もAAAARCHには消極的。」 (江端)「同意見だが、MPLS-VPN BOFよりはまし。」 (波賀)「MPLS-VPN BOFは49th IETFでWG昇格を目指している。」 (江端) 「AAAARCHを踏み台としてMPLS-VPN WGができたら     WGに持ち込むことも考える。」 結論:WG参加も視野に入れつつ、現段階ではAAAARCHを活動拠点とする。   1-3. GMD (江端)「今回のドラフトに、GMDとの連携をにらんで課金、測定の     要素を盛り込むことは避けたい。」 (コミス)「GMDとの連携のため、課金や計測の要素を盛り込むのは本末転倒。」 (コミス)「日立内でまとめた内容をGMDに示し、協力が      得られるようであれば要請する。」 結論:現段階ではGMDとの連携にはこだわらない。日立側の提案に    GMDが興味を示すのであれば、積極的に連携を考える。   1-5. HP (江端)「現在HPは標準化活動に参加している余裕はない。」 (コミス)「特許の権利の問題もあるので、巻き込まない方がよい。」 結論:HPのみならず、Fort Collinsの他の日立メンバーも巻き込まない。   1-6. IETFでの発表 (江端)「発表できるとしたら(コミス)または(三家)。」 (江端)「現段階ではドラフト執筆に専念する。」 結論:ドラフト執筆最優先。現段階ではIETFでの発表は視野に入れない。  B. プロジェクトのスケジュール確認 (江端)「ドラフト0版執筆フェーズを短縮し、その分調査に時間をかける     こともできる。」 (江端)「発表を視野に入れないなら、IETF期間直前に提出すればよい。     空いた時間を調査、執筆に回すこともできる。」 (平川)「IETF期間中に提出した例もある。」 結論:現時点では(江端)案のまま。 09/25 - 09/29 方針決定フェーズ(済) 10/02 - 10/13 問題抽出、既存技術調査フェーズ 10/16 - 10/27 ドラフト0版執筆フェーズ 10/30 - 11/03 社外渉外フェーズ 11/06 - 11/10 ドラフト1班執筆フェーズ&渉外フェーズ 11/13 - 11/17 特許執筆フェーズ 11/20 - 11/24 ドラフト提出 11/27 - 12/08 発表準備(未定) 12/11 - 12/15 49th IETF - San Diego, CA, USA 7. 今後の予定 ・各人の宿題  −ドラフトの内容について、整理した後MLに投げる→(江端)  −担当分野の調査→各人 ・次回開催予定  未定。 8. 感想 ・電話会議開始時刻になって、(S研)会場側にあるはずの電話会議用機器が  ないことが判明。会議開始時刻が15分遅れた。  (イツマ)が機器を(S信)へ持って行ってしまったらしい。  (波賀)が(S信)で実習中なので、次回は(S信)から機器を取り返すか、  (S信)を日本側の会場としたらよいと思う。 ・電話会議に出席したのは初めてであったが、顔が見えなくても  議論はできるものだと感じた。  遠隔地の出席者がそろって口をつぐんでしまうと、放送事故のような  不安も感じるが、顔色をうかがうことなく意見の交換ができることは  いいプラス材料なのではないだろうか。 ・今回は議事録のためのメモ取りに専念して、発言も茶々入れも  しなかったので、次回は頃合いを見はからって意見を述べたい。 ・でも本職(PXプロジェクトや依頼研)があることを忘れずに。 以上