H社S研究所 新人養成 裏マニュアル 「月報」作成編 Ver0.0 2002/05/22 江端智一 0. 免責 本文章の内容は無保証である。 本文章を参考にして作成された、如何なる生成物に関しても責任を持たない。 本文章により、どのような事が起ころうとも当方は一切の責任を持たない。 1. 江端的「月報(月期報告書)」作成の目的と心得 新人の諸君は、幾度となく指導員からつっかされる月報に、腹を立てるかも しれないし、しまいには、バットで殴り殺してやろうかという気持も出てくる かもしれません。 『お前(指導員)の言う通りに直しているのに、なんで再提出させやがるんだ、 この野郎』と思って当然だし、限りなく続く修正作業は、非常にストレスや虚 無感を感じさせるものです。 個人的には、こんな転生なき輪廻の作業から、新人の諸君を解放してやりた い気持で一杯です。 ですが、指導員も、なにも新人諸君を苛めたくてやっている訳ではないので す。 むしろ、こんなことはやりたくない。 時間もかかるし、第一、面倒だし、はっきり言えば、新人の実習報告なんぞ、 指導員が一番よく知っているんだから、読んだってしょうがない。 ----- 驚かれるかもしれませんが、この転生なき輪廻の責任は、指導員と新人の共 犯関係から生まれているものです。 それは、 - 修正作業の中から、報告書作成の本質をとらえて欲しいという、 「古典的職人意識」であるところの「必要な技術は盗め」的な、指 導員の *時代錯誤な* 発想 と - 指導員の修正の意図を汲み取れず、指導員の言うがままに修正して、 簡単に再提出してしまう *思慮のない* 新人の行動 の、二つ。 どちらも、ナンセンスです。 大抵の場合、立場の弱い新人が、指導員の意図する「行間」を読む作業を強 いられることになるのですが、これには指導員も時間がかかるし、面倒です。 本文章は、 - 新人諸君の報告書能力の向上を目指すもの ではなく、ずばり申し上げるのであれば、 - 上記の「行間」を、可能なかぎり具体的かつ詳細に説明し、新人諸 君に、私(江端)の時間の消費を最小限にして貰うこと を目的とするものです。 私は、諸君たちの、「滅茶苦茶で支離滅裂な報告書」を修正する作業よりは、 プログラムを組んでいるほうがいいし、はやく家に帰って、嫁さんや娘と遊ん でいるほうが、ずっと楽しいのです。 何卒、御協力をお願いします。 2. 江端的「月報(月期報告書)」の構成 2.1 月報の骨 月報の骨格は以下のようにします。 とりあえず、こういう構成で文句をつける指導員はいないはずです。 読みやすいからです(これについては後述)。 「実習内容」には、4つの骨があります。 第1の骨 「研修の大目的」を書きます。研究テーマに相当す るものです。 第2の骨 上記の「研修の大目的」に向かうための、「当面の 目的」を書きます。これは、現在の具体的な仕事に 相当するものです。ですが、下記の第3の骨とは異 なりますので、注意して下さい。 第3の骨 「具体的な実習内容」を書きます。これは、プログ ラミング、プロトタイプ開発、輪講、論文講読、特 許・研報執筆、などがこれに相当します。 第4の骨 「今後の予定」を書きます。具体的には第3の骨に 書いた項目が、来月にはどのように進めるのか、来 月は、どのような作業を予定しているのか、等を記 載します。 さらに、「意見・感想」にも4つの骨があります。 第1の骨 「実習内容」第3の骨に対する、それぞれの意見・ 感想を記載します。 第2の骨 「実習内容」第2の骨に対する意見・感想を記載し ます。 第3の骨 今月の苦労話と(かすかな)愚痴を記載します。 # ここで会社や上司の悪口など書かないように ## 言うまでもないだろうが 書くことがないなら、ここはスキップしても良い。 第4の骨 今後(来月から)の明るい前向きな方針・姿勢 の表明と、「数年後の私」をイメージした抱負を記 載します。 2.2 月報執筆におけるレトリック  なお、月報執筆にあたり、必要となるレトリックを以下に示します。 (1)できるだけ構造的(ブロック的に)に文章を書く 文章は2〜3行で一区切りになるように。接続詞をあまり使わず、で きるだけ断定的に書くことが望まれます(読者に推測の余地を与えない)。 (2)並列的に記載する場合は、箇条書きを使う 例としては、「・・・は、以下の3つである。(1)・・・。(2)・・・。 (3)・・・。」と言うような記述方法を薦めます。 個人的には、月報の全部を箇条書にできれば、本当に美しくて読みや すものになると思いますし、文章の下手さを効率よく隠せると言う点 でも、強く推奨します。 (3)文章全体を「構造的プログラム」として捉える   [研修の大目的」→(の為に必要な)[当面の目的]→(の為に必要な) [具体的な実習内容]→(の為に必要な)[今後の予定]と言うような、 トップダウン的な構造的プログラミングアプローチを使うと良いでしょ う。読み手にとって読みやすいと思われます。 畢竟、プログラムも文章も、「構造的」につくることで、可読性が上 がるのです。 (4)文節も構造的(トップダウン)に書くこと (1)〜(3)においては、文章全体を構造的(トップダウン)に書くこと を指示しましたが、文節もを構造的に書く必要があります。 【例1】 (何のために)  複数の組織間でポリシー情報を交換するために、 (何時)     (省略) (誰が)     IPAプロジェクトで実装を行なっているポリシーサー バに、 (何を)     ポリシー情報の配送を可能とする拡張BGP4を (どうした)   実装することになった 【例2】 (何のために)  これらのBGP4の基本機能を取得するため (何時)     (省略) (誰が)     (省略) (何を)     これらにに関する文献を (どうした)   調査した (5)「意見・感想」のテンプレート あまり勧められることではないが、「意見・感想」の書き方は難しいので、 テンプレートを、以下に用意しておきます。 上記実習内容(1)に関しては、・・・・・であった。また(2)では・・・ であった。さらに(3)では・・・であった。全体として・・・であり、 今後は・・・・していきたいと思う。 これをテンプレートとして使えば、比較的簡単に作れるでしょう(多分)。 (6)その他 文章は、改行や箇条書きが多いほど読み易いのですが、文字数に厳し い制限があります。 そこで、一般的には勧められてはいないが、H社S研究所新人養成裏マ ニュアルにおいては、 - 半角仮名文字 の使用 を認めます。 3. 「月報の骨」を使った月報サンプル(指導員江端の研修員、K氏の5月提出月 報より) 【実習内容編】 (「実習内容」第1の骨) 現在、大規模IPネットワークを対象としたポリシーベース通信品質保証技術の 修得を目的として、研修を行っている。 (「実習内容」第2の骨) 通産省情報処理振興事業協会(IPA)より受注した「QoS保証対応アクティブネッ トワーク技術の開発」に参加し、特に組織間のネットワーク運用ポリシーを調 停しつつ、動的に通信のQoSを保証できる資源割当技術に関する具体的な仕様 及び実装検討を行う予定である。 (「実習内容」第3の骨) 上記目的を達成するために、必要となる以下の項目に関して実習を進めている。 (1) ネットワークの基礎技術の調査 ネットワークの総合的な書籍であるタンネンバウム著「コンピュータネットワー ク」を教科書として、現在OSI 7層の第1層から第3層までの基礎技術を調査し た。輪講を通じて調査した技術の検討を行っている。引き続き基礎技術の調査 を継続する。 (2)QoS保証対応アクティブネットワーク技術の調査 IPAの基本計画書を基に、QoS保証対応アクティブネットワークの概要、特にポ リシーベースの組織間通信について重点的に調査した。 (3)ネットワークプログラミング技術の向上 研発デモシステムのポリシー設定画面をVisual Basicによって作成した。引き 続き、C言語を用いてネットワークプログラミングを行う予定である。 (「実習内容」第4の骨) 今後の予定としては、ネットワーク基礎技術の修得を6月末までに完了し、 draft,RFCによる輪講、ポリシーの記述に用いるLDAPの基礎技術の修得に入る 予定である。並行してポリシー関連研究、製品調査を行う。 【意見・感想編】 (「意見・感想」第1の骨 + 第2の骨 の併合方式) 上記実習内容(1)に関しては、現在基礎技術の調査中であるが、概念的な調査 だけでなく、理解が深めるため、ネットワークプログラミングにより実践的な 技術の調査も並行して行いたい。また、(2) では、計画書独特の表現と、大量 に出てくる専門用語にまだ慣れていないため、時間をかけて少しずつ調査して いる状態である。さらに(3)では、初めてのVisual Basicプログラミングであっ たが、基本的なGUIは作成できるようになった。高度な技術はまだ使用できな いが、成果が目に見えるため、やりがいがあった。 (「意見・感想」第3の骨は、今月はスキップ) (「意見・感想」第4の骨) ネットワーク基礎技術の修得は5月中に完了する予定であったが、やや遅れ気 味である。基礎技術がないことには他の実習に支障があるため、今後は基礎技 術の調査を含めた実習のスピードを上げていきたい。 4. その他 (執筆中) 以上