江端さんのひとりごと              「核融合前」  土曜日の日、ウインドサーフィン体験コースに行ってきました。  この件については、とても一言では語り尽くせないので、後程「江端さんの ひとりごと『オブジェクト指向人間のすすめ』」にて詳細に説明いたします。  で、その帰り道、愛車シビックを運転して国道245号線沿いを大甕に北上 していたのですが、その途中で、今年最も有名な土地の名前の一つとなりまし た「東海村」を通過します。  「動燃前(*1)」「原研前(*2)」などと言う交差点があり、その交差点は施設 の敷地の正門前にあります。  正直ちょっと引き気味の気持ちで運転しつつ、それぞれの施設の正門の前を 通ったのですが、私が(あれ?)と思ったのは、警備が特別に厳重と言うわけ ではなかったと言うことです。  ほとんど、日立の横浜工場や大甕工場と変わりません。守衛所に守衛が一人 ぽつんと座っているだけです。  私はてっきり、中火器を常備携帯した2個中隊が正門を中心に展開し、後方 にはバスーカ砲や陸戦戦車が闇に隠れて配置されているものだ、と思っていま した。  当然、核テロリスト対策としてです。  どうも原子力=兵器と考えてしまうあたりが、ステレオタイプな被爆国日本 の国民であるなあ、と思ってしまいました。 (*1) 動力炉核燃料事業団 (*2) 日本原子力研究所  -----  昨日の日曜日は、本を買うためにわざわざ水戸まで出て行くことにしました 。  私の探した限りで、大甕にはろくな本屋がなく(と行っても、専門的な技術 書籍を集めた本屋が無いのは、当たり前かもしれないけど)私は非常に憤慨し ています。  それで、大甕から20kmも離れた水戸まで出かけて行って、本屋を捜し歩 くことになったのです。   シビックを国道6号線沿いに水戸方向に走らせ、東海村を通過するころにな ると、原子力研究所、動燃、原子力博物館、その他の原子力産業に関係のある 企業(日立は言うまでもない)などの案内看板がいっぱい出てきます。  今更ながら、東海村が原子力で成り立つ『原子力立村』であることを思い知 らされます。  いろいろな交差点の名前を見ながら、6号線を南下していきます。 「原研前」「動燃前」などと言う名前のつけられた交差点を抜けて、ある信号 交差点に差し掛かった時、私は思わず自分の目を疑い、言葉を失いました。  (な、なんて・・・非常識なネーミングをしやがるんだ・・・)  「核融合前」  核融合前の状態にある交差点なんか、恐くて一体誰が通れるというのでしょ うか。  地球上に無尽蔵にある水から、太陽そのものを作り出す核融合。核融合プロ セスから、定量的にエネルギーを取り出すことができれば、人類はエネルギー 問題を永遠に解決したも同然です。  しかし、それと同時に「核融合」とは、爆心地点の温度は数千度、1つの都 市を完全に廃虚とする、最高の破壊力を持つ最終兵器『水素爆弾』の最終プロ セスでもあります。  私は、アクセルを思いっきり踏んで、その交差点を全力で駆け抜けました。 そして、すべてを気化する爆心地点の温度と、その半径を頭の中に思い浮かべ ていました。  -----  核融合前交差点が、バックミラーの中でどんどん小さくなり、ややほっとし ている所に、思いもかけず次の恐怖が全身に襲いかかってきました。  まさか、そんなことはないだろう。 いくらなんでも、そんなことはしないだろう、と思いつつも、私はその恐怖 を振り払うことができませんでした。  この次の交差点、『臨界点前』ってことはないだろうな・・・。  ---------  恐るべし、東海村政策。  まず名前から入って、村民の原子力用語に関する偏見を排除する作戦。  日常的にこのような用語を用いることで、村民の方々は、多分原子力に対し て、盲目的な批判をすることはなくなるし、多分義務教育プログラムの中でも 、きちんとした原子力教育がなされていくものだと期待されます。  それはそれでとても良いことだ、と私は思います。  なぜなら、実態を見ない非論理的批判くらい質の悪いものはないからです。 批判は、きちんとした理解と、事実の確認から行われなければなりません(*3) 。    ですが、個人的に一言だけ言わせて頂くのであれば、 女子高生A:「ねえ、今日さあ、ラーメン食べて帰らない。あの核融合前の        とこ。」 女子高生B:「えー?! あの核融合前の親父って、スケベったらしい目し        ていて、いやじゃん! それなら、臨界点前店の方にしよう        よ! ねっ!!」     私個人としては、こういう会話はあまり聞きたくないないのです。 (*3)そういう意味で、動燃の不祥事は組織の解体に十分足るものだと思う。 (この「江端さんのひとりごと」は、コピーフリーです。全文を掲載し、内 容を一切変更せず、著者を明記する限りにおいて、自由に転載していただい て構いません。)