江端さんのひとりごと 「怪しげな郵送物」 10/20/2001 日本のニュースとか見ていると、米国のテロに関する記述が少しずつトーン ダウンしてきているようですが、こちらでは、細菌テロ(FBIは、未だ否定的見 解だが)が洒落にならん状況になってきているように感じます 先日、ネバダ州のどこかに、炭そ菌が送られてきたとのニュースは、江端家 を凍らせました。 ついに、隣りまで来やがった・・・ 東海岸、西海岸あたりはすっかり危ないようですが、中部山岳地帯への炭そ 菌攻撃は、フォートコリンズと言うマイナーな田舎町の住人を怯えさせるのに 十分なものがあります。 そんな折も折、今朝、私のメールボックスを覗き込むと、手書の小包郵送物 が来ていました。 送信元 テキサス州ダラス 送信者 R Miller 知りません、こんな人。 大体、私は、テキサスに知人はいません。 ダラスと言えば、大統領の暗殺くらいしか思い浮ばない。 郵送物を机の上に置いて、睨みつけながら、5分が経過しました。 ----- このようなことは、滅多にないのですが、今朝、デンヴァー日本国総領事館 から、以下のようなメールが届いていました。 ----- ここから ----- 在留邦人の皆様へ 「炭疽菌その他の疾病媒介生物による汚染の恐れへの対処方法」 についてのお知らせ 2001年10月15日 在デンヴァー日本国総領事館 1. 10月15日、厚生労働省では、米国厚生省疾病管理・予防センター(CD C)が米国在住者向けにインターネットのホームページで情報提供している 「炭疽菌その他の疾病媒介生物による汚染の恐れへの対処方法」を日本語に仮 訳の上、同省のホームページに掲載しましたところ、右ご参考までに以下のと おり送付いたします。 当館では別途Eメールを使ってこのお知らせを在留邦人の皆様に直接ご連絡 しておりますが、現状ではEメールをお持ちでない方もいらっしゃいます。こ のため、このお知らせを受領されたら、会社の同僚やお知り合いの在留邦人の 方に本件内容についてご連絡頂き、情報を共有していただきますようお願い申 し上げます。  なお、本資料が掲載されている厚生労働省のホームページは以下のとおりです。     厚生労働省ホームページ   http://www.mhlw.go.jp/ (中略)  〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜    米国厚生省疾病管理・予防センター(CDC)による健康に関する勧告               (厚生労働省仮訳) 炭疽菌その他の疾病媒介生物の脅威への対処法  米国内の様々な地域で、多くの施設が炭疽菌による脅迫の書簡を受け取って います。 ほとんどは空の封筒ですが、粉状の物質を含んでいることもありま す。このガイドラインの目的は、こういった事態への対処方法をお勧めするも のです。 <パニックにならない> 1.炭疽菌は皮膚、胃腸内、あるいは肺に感染症をおこし得ます。そうなるた めには、炭疽菌はすりむいた皮膚に擦り込まれるか、飲み込まれるか、あるい は細かく煙霧化された霧として吸入される必要があります。しかし、適切な抗 生物質による早期の治療によって、炭疽菌の芽胞(細菌の胞子のようなもの) に曝された後でも、発症を防ぐことができます。炭疽菌は人から人へと伝染す ることはありません。 2.炭疽菌が、目につかない病原体として効果的であるためには、大変小さな 粒子へと煙霧化されなければなりません。しかし、これを行うのは難しく、ま た相当な技術と特別な機材が必要になります。もしこういった粒子が吸い込ま れたら生命にかかわる肺の感染が起こり得ますが、このような場合には迅速に 察知し治療を行えば効果的です。 <「炭疽菌」のような脅迫メッセージが記された、疑わしい未開封の書簡又は 小包に対して> (中略) <粉が入った封筒や粉が床や机などの表面にこぼれた際に> (中略) <煙霧化による部屋の汚染の疑いについて:例えば小さな仕掛けが動き出した とか、空調システムが汚染されたとの警告が発せられたとか、疾病媒介生物が 公共の場でまかれたとの警告が発せられた時など> (中略) <疑わしい小包と書簡の見分け方>  疑わしい小包や書簡は以下のような特徴を有していることがあります。 ・過剰な切手 ・手書き又は下手にタイプされた住所 ・誤った肩書き ・肩書きはあるが名前がない ・ありふれた言葉にもかかわらず綴りの間違いがある ・油っぽいシミ、色あせ、匂い ・差出人住所がない ・過剰な重さ ・片方が重い、又は不均等な封筒 ・突き出た針金又はアルミホイル ・過剰な防護材(マスキングテープ、ひもなど) ・見た目がおかしい ・チクチクッという音 ・「親展」や「秘密」などの限定的な語句が記されている ・差出人住所と一致しない市や州の消印が押されている (以下省略) ----- ここまで ----- 「パニックにならないように」と述べている反面、文章から滲みでる緊張感 を、覆い隠すことはできなかったようです。 ----- このデンヴァー日本国総領事館からの通達を元にして、再度この、怪しい郵 送物を眺めてみると、 ・過剰な切手 10枚張ってある ・手書き又は下手にタイプされた住所 完全に手書、おまけに字も下手だ ・誤った肩書き 肩書なし ・差出人住所がない "DALLAS TX" のみ ・過剰な重さ 葉書100枚分程度の形と重さ ・過剰な防護材(マスキングテープ、ひもなど) ソフトパックケースの封筒 ・見た目がおかしい 文句のつけようない、100点満点の怪しさ。 5分程、腕組みをしながら考えたのは次のようなことでした。 (1)動機(その1) 私が、イスラム原理主義者を、死ぬ程嫌悪していることは、すでに http://www.kobore.net/Wall.txt にて表明済み。 従って、敵がイスラム原理主義者であるなら、動機はある。 ----- 世界的に著名なエッセイストの言論を封じようとしている 実に説得力のある動機である。 どうやら、敵は日本語にも精通していると考えてよいと思う。 (2)動機(その2) ヒューレットパッカード社を狙ってきたのは何故か。 先日併合された、コンパックに勤務していたスリーパー(*1)の仕業か。 はたまた、閉鎖されたニュージャージのヒューレットパッカード社の 社員か。 (*1)普段は一般市民を装って、指令が下るとテロを開始する人物のこと 最も有力な推測は、我々が着手しているポリシーベースネットワーク 管理ツール(開発コードPX)の開発阻止である。 航空機テロ、細菌テロとくれば、残りは、サイバーテロしかありえな い。 日立システム開発研究所の江端が極秘でPXに実装した、(現在は封印 されている)『あの』機能を使えば、サイバーテロなど、ものの数で はない。 世界中のテロリストが、この究極のカウンターサイバーテロ機能を、 如何なる手段を用いても、阻止したいであろうことは、想像に難くな い。 日立のサムライチームを含めた、開発チームの全滅。 これも見逃せない動機と言えよう。 (3)どのように所在地を特定したか。 最近デンバーにやってきた、ほぼ100%の人間が(サンプル数 二人)読 んでいると言う、あの名著「サンフランシスコ国際空港(SFO)の越え 方」http://www.kobore.net/sfo.txt の中に、HPの江端 の宛先が明記されている。 これで、ターゲットは確定されたと言えよう。 ・・・と言ってはみたものの、上記は、相当量の自己陶酔が入り混った、確 定根拠が皆無の、単なる思い込みであることくらいは、私にもわかっています。 そこで、私はこの段階で自分の取りえる行動を、注意深く考察してみました。 (1)放置 悪戯に汚染範囲を拡大し、開封よりも悪い結果が待ち構えているだろ う。 (2)廃棄 汚染範囲が確定できず、(1)よりも悪い結果になるだろう。 (3)転嫁 他の人に開封させて遠くで見守る、と言う手段が有効であるのは間違 いないが、その結果がどうあれ、プロジェクト全員からの信頼を失墜 することは免れないだろう。 「誰を生贄にしたか」と言う問題も、後々引きずることになろう。 後ろ向きで検討した、上記(1)(2)(3)のいずれの行動も望ましくないと判断。 そこで前向きの方向で検討を始めてみました。 (4)警察に通報 ファーストフードの英語で苦労している私が、警察とのまともな会話 が成りたつとは、到底思えない。 下手に説明すれば、テロリストと勘違いされる公算の方が高い。 とすると、取り得る手段はただ一つ。 私は、意を決して、私は封筒を開けました。 ----- 中から出てきたのは、日本語版では数えきれないほど読み返した、 James P.Hogan の "The Genesis Machine"(日本語訳「創世記機械」) のペーパーブック。 そう言えば、amazon.comで注文していたのを思い出しました。 この本、かなり前に廃刊されていて、(この本も1984年の第5版)、中古本と して買ったのですが、プレミアが付いていたのかどうかは定かではないのです が、中古ペーパーブックごときに、13ドルもしました。 しかし、『所有者本人』から送ってくるとは思わなかった。 amazonが仲介している以上、当然、amazonから送られてくると考えるのが、 筋だろう。 しかも、この所有者、本の他には一通の手紙もなしと言うドライぶり。 こういう、合理主義者、私は好きですが。 ----- と言う訳で、この一件は無事落着したのですが、送り主不明の封書を開封し たと言う段階で、HPから激怒されても仕方ないだろうな、と自分でも納得でき るくらいです。 実は、このエッセイを書いている最中にも、社内アナウンスで「不審な郵便 物が到着した」とのメッセージが流れ、一時騒然とした空気になったりもしま した。 その後、この郵便物は、「シロ」判定が出たとのことで、ホッと一息ついた りもしていたのですが、いずれにしても、現在の米国の状況は、日常を装いな がら、誰もが緊張を隠せないという雰囲気の中にあります。 ----- 先日、原子炉を攻撃するとの脅迫が届いていたことがニュースで放映されて いました。 9/11の実況中継で、崩れ落ちていく貿易センタービルを見ながら、私が一番 恐れがのが、原子炉攻撃です。 私が狂信テロリストなら、貿易センタービルではなく、真っ先に原子炉を攻 撃したでしょう。 この辺りの話については、以下を御参照下さい。 江端さんのひとりごと「神の火」 http://www.kobore.net/godfire.txt 高村薫の「神の火」を読むまでもなく、ミサイルなんぞなくても、セスナ一 機で、原子炉は破壊できます。 今日、英語の家庭教師のスティーブに、「コロラドに原子炉はあるのか」と 聞いたら、「I-25沿いのロングモント(ここから20マイル弱)にあるよ」と軽く 回答され、夫婦で絶句してしまいました。 スティーブと一緒に、その原子炉の位置を地図で探していたら、なんと、そ の半径10マイル以内に、3つの空港(プライベートのセスナ用)を見つけてしま いました。 米国脱出の為に、デンバー空港に行く途中に、炉心が剥き出しになった原子 炉が立ち塞がる ----- こんな事態になった時、一体、誰が私たちを助けるこ とができるのでしょうか? (本文章は、全文を掲載し内容を一切変更せず著者を明記する限りにおいて、 転載して頂いて構いません。)