江端さんのひとりごと 「お祝いのメッセージ」 2005年3月24日 姉夫婦の双子の娘が、両方共第一志望の高校に合格したので、お祝いのメッ セージを送付しました。 <ここから> 先程、 嫁さんより連絡を受けました。 一応、不合格の時のメッセージも考えていたのですが不要となり、本当によ かったです。 #私の場合、現役浪人時代を含め、第一志望校は全滅でしたから http://www.kobore.net/tex/alone95/node19.html さて、今、私は、自分の高校時代のことを思い出していますが、私は高校時 代にあまり良い思い出がありません。 その一因を振り返って見るに、高校時代に良い友人を作りえなかったことが 挙げれるのではないかと考えています。 合格した高校で「自由な校風」とかいう言葉に酔っている阿呆なクラスメー トや、「生徒達の自主性を尊重する」とか言う言葉に擦り換えて、生徒の管理 一つできなかった無能な教師達とは、決定的にそりが合わなかった訳です。 「自由な校風」という言葉が存在しうるという事実は、その裏に「不当な管 理教育」の実体があることであり、「生徒達の自主性を尊重する」という言葉 の裏には「リーダシップすら発揮できないだらしない大人達」の存在がある訳 なのですが、この高校の人間達は、その程度のことにも気がつかないのかと、 私は高校時代にずっと静かに怒り続けていたような気がします。 しかし、そういう考え方をしている生徒(私のことだが)を、当然教師も扱い かねるし、そういう生徒(私のことだ)に友人ができないのは、当然といえば当 然です。 そんな訳で、世間で言うところの「青春時代」とやらに、私が何をしていた かというと、一人で本を読みまくっていた訳です。 文学、科学、宗教、哲学、なんでもござれ、ノンセクションで読みまくって いました。 まあ、それはさておき。 ----- 高校生になると、色々な考え方を持っている人間にあい、不安になったり、 孤独を感じることが多くあると思います。 自分の思いを殺して、友人に無理合わせたり、不本意な振る舞いをしなけれ ばならないような場面も多くなるかと思います。 このような時、どうすれば良いかは、結局のところ自分で決めればよいこと ですが、一つの道として、 「自分の信じる方向に、誰とも連れ添わず、孤独にたった一人で歩い ていく」 という生き方が、ちゃんと用意されていることを忘れないでいて下さい。 もちろん、「自分の信じる方向に、誰とも連れ添わず、孤独にたった一人で 歩いていく」という生き方は、決して楽しくも、幸せを感じることもありませ んし、孤独で寂しく、正直、避けれるものなら避けた方がよいと思います。 だからといって、無理して人の調子に合わせて、自分自身がどこにいて、何 者であるのかが分からなくなるような、そんな生き方をすることはありません。 と言いますのは、 (1)高校の3年間なんぞ、息を止めている間に終わるくらいの短い時間だからで す。 3年程度の時間で、獲得できることなんぞ知れています(せいぜい英単語くら いじゃいかな)。その程度の時間で、協調性やら社会性やらなんやらは育ちま せんし、育てる必要もありません。 大体人間が生きていくのに協調性なんぞは、そもそも不要なものなのですが、 これについては、いずれ語るときも来るでしょうから、今回は割愛します。 そして、 (2)無理して人に合わせるために努力するような時間で、やれることが腐る程 あるからです。 上にも書きましたが、私は友人ができなかったお陰で、山程本を読み、勉強 をすることができ、そのおかげで、多くの雑多な知識を得ることができ、学問 への萌芽とも言うべき「何か」が、この時生まれたのだと思います。 現役で大学受験に失敗しましたが、そのお陰で素晴らしい浪人時代を過ごす ことができました。 予備校の物理の教師が「物理学は宇宙の抒情詩だ」といった言葉に感銘し、 その後の勉強で、宇宙が目も眩むような美しい秩序をもって存在しているのを 感じることができました。 そして、その後のキャンパスライフや社会の中で、自分の考えを受け入れて くれる友人に、沢山出会いました(高校なんぞ、社会のカケラほどの価値もな い、極小のコミュニティにすぎません)し、その中で、一生の知己が何人もで きました。 物理学から電気工学への傾倒、そして今は、企業研究員としての世界を飛び 回って働かせて貰っています。 これもそれも、全て「楽しくない、孤独で、寂しい」高校時代の、読書や勉 強のお陰と私は信じております。 ----- 読み返してみると、これからの高校生活に胸を膨らませている、テーンエイ ジャに贈るようなメッセージではないようにも思えますが、新しく高校生にな る二人への餞(はなむけ)に、敢えて「辛気臭い」メッセージを贈ってみまし た。 一人くらいこーゆー変なことを言う人間がいるのも、悪くないだろうと思い ますし、気に入らなかったら、そのまま忘れて貰えれば結構ですので。 # どうせ、今は、多くの人からの華やかな「おめでとうメッセージ」の真っ # 只中にいることだろうしね。 ----- では最後に、 ------------------------------------------------------------ 高校合格おめでとう。 素晴らしい高校生活でも、素晴らしくない高校生活でも、どっちでも 君たちの価値ある人生の糧とならんことを、心より祈っております。 ------------------------------------------------------------ 2005年3月23日 江端智一 <ここまで> (本文章は、全文を掲載し内容を一切変更せず著者を明記する限りにおいて、 転載して頂いて構いません)