江端さんのひとりごと 「下々の者へ」 随分前の事になりますが、先輩のNさんが家に泊りに来たときの事です。 最近メジャーになって来た日本競馬協会(JRA)のCMを、嫁さんを含めた3人 で何とは無しに見ていました。 JRAは、従来の「おっさん」「やくざ者」「酔っ払い」のイメージを脱却す ることを目的として、若手のアイドルを採用して若者や女性をターゲットとし た斬新なCMを次から次に打ち出していました。 その時は、「高松宮杯」と言う名前のレースのCMをしていました。 江端:「それにしても、皇族と言うのは金持ちなんだなあ。」 私の独り言を聞いて、嫁さんとNさんはテレビから目を離して不思議そうに 私の方を見ました。 江端:「レースを開催できる財力があるんだもんなぁ・・・」 Nさんは、一瞬何のことか分からない風な表情を見せた後、けげんな顔をし ながら私に言いました。 Nさん:「・・・お前、あのレースに皇族や宮内庁が金を出していると言う訳 じゃないぞ。」 江端 :「え?」 Nさん:「当たり前だろうが。」 江端 :「じゃあ、なんで『高松宮杯』だの『天皇賞』だのと言う名前のレー スがある訳?」 Nさん:「そりゃ、単に国民の休日だとか、何かのゆかりに関係しているだけ だろう。」 江端 :「それって・・・何かおかしくない?!」 Nさん:「じゃあ、何か。お前今まで、天皇陛下が競馬を開催していると思っ ていたわけか?」 江端 :「だからさあ、『私の下々の民達よ。まあ、私の誕生日のことである。 たまにはこのようなギャンブルに興じるのも良かろう』って・・・」 Nさん:「で、おもむろにポンと、陛下のポケットマネーからレースの開催費 を出す?」 ちょっとの間の後で、Nさんは言った。 Nさん:「・・・どうしたらそういう発想ができるのかな、お前って奴は。」 (本文章は、全文を掲載し内容を一切変更せず著者を明記する限りにおいて、 転載して頂いて構いません。)